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頼りにしてるよ



 仕入れの計算をしていたエンケが一区切りつけるのと、ルクスが終了の報告をするのは同じ頃だった。

 ルクスはエンケに頼んで棚を移動してもらう。元の位置に戻った棚はすっかり元通りであった。


「……ここまで元通りになるなんてな」

「え?」

「ああいや、なんでもねえ」


 慌てた様子のエンケに不思議そうな顔をするルクス。本人はなんでもないような顔をしてはいるが、棚のあれほどの損傷を修理するのは加工師としての腕が並外れて高いことを示していた。


「おっと、忘れるところだった。これを受け取ってくれ」


 しきりに感心していた風のエンケが、思い出したように近くの作業机の引き出しを開けた。そこから取り出したものをルクスへと差し出す。


「……って、これ」

「依頼金だ」

「受け取れないよ」


 そう言ってルクスはエンケの手を押し返す。そう言うな、とまた差し出そうとするエンケを止めるため、ルクスは口を開いた。


「本当に受け取れないよ。いつもお世話になってるし」


 それに僕の商品を置いてもらってるしね。

 ルクスの明るい笑顔に納得行かないような顔をしつつも、


「そうか? まあ、こっちは助かるんだが……」


 とエンケがしぶしぶといったように懐にしまう。そんな様子がおかしくてルクスは笑ってしまうのであった。









「それじゃ」

「おう。困ったことがあれば何でも言っていいからな」


 そんな男らしい優しさを見せるエンケに感謝を述べながら、ルクスは家具店を後にする。しばらく雑談をした後は、思いの外時間がたっていた。そういえば朝御飯から食べていない。


「お腹すいた」


 近くに誰もいないので、口が正直に動く。もう少し散歩をしたらどこかで食べようと食事場所の考えを巡らせた。

 いい考えも浮かばないまま、さらに中央のほうへと足を進めると、商店通りの方へと出た。


「商店通りか……」


 ここは確か食べられる場所があったよね。

 そんな考えに思い至ったためか、途端にうろつき始める。その様子はまるで餌を求める動物のようであった。

 そして、それを狙う狩人が一人。


「あら、ルクスじゃない。どうしたの?」

「サラさん……」


 背後からの突然の呼びかけに驚いた後、いつもの気弱げな笑顔で振り向く。エンケさんを連れてくればよかったな、と思うルクスであったが、サラはその様子を見て悲しそうな顔を見せた。


「今、私の声を聞いて怖がらなかった? 傷つくわぁ……」


 そんなあまりのわざとらしさに苦笑しか出てこないルクス。そんなルクスにサラは目を袖で隠して、すん、すん、と泣き出す。もちろん泣き真似。


「そんなことないよ。ちょっと驚いただけで……」


 その後さらに言い訳を重ねるも、なかなか泣き真似をやめないサラに、


「……困ったな」


 そうつぶやきを漏らしたとたん。

 それきた! といった様子で顔を上げる。そこにはもちろん涙はなく、いつもの妖艶な笑みがあった。しまったと思っても、もう遅い。


「女を泣かせた責任は重いわよ~?」

「いや、泣いてないよね?」

「それじゃあ、ついてきて」


 人の話を聞かないままルクスの腕を引っ張るサラ。そんな強引気味な方法に、はあっとルクスはため息を一つ。特に反抗することもなく、ルクスは諦観の面持ちでおとなしく引っ張られていくのであった。











 連れてこられたのはサラの家でもある鍛冶屋だった。王都一の腕前を持つサラの父親が営んでおり、騎士団の武器も特注で作られたりしている。

 住居部分と作業部分が別途建てられていて、サラは作業部分の玄関を開けた。

 入って、といかにも招くようにルクスを促すサラ。仕方がないので入ると、そこには見上げるほど立派な炉が構えていた。おそらくその向こう側には、風を送り込むための吹子もあるのだろう。今は動いてる様子はなかった。


「……なるほど」


 しかし、すでに見たことのあるルクスは大して驚かず、代わりにその根元部分を凝視していた。その部分にあるのは、パッと見では分からないほどの小さなひずみ。


「気づいたの? さすがね」


 サラは純粋な驚きを見せた後、これを直してほしいの、とルクスに頼んだ。


「直す? エドさんに許可は……」

「取ったわ。というよりも、父がルクスに頼んでくれって私に頼んだのよ」


 そうなんですか、と納得するようにつぶやくと、ルクスは炉の方へと目を向ける。その顔はもう気弱げなそれではなく、職人としての真剣な表情だった。


「……頼めるかしら」


 そう問いかけるサラの表情は、心なしかうっとりとしている。ルクスはその様子を見ないまま、


「やってみるよ」


 ルクスははっきりと言った。







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