寂しがりやの吸血鬼
少女は訴えた。溢れる悲しみと優しさを歌に乗せて。
少年は聞いた。王城から響き渡る、凛とした歌声を。
思えば、あの時から僕は歌声の主に惹かれていたのかもしれない。
自分が人の繋がりから離れたモノであることを嘆き、ありもしない望みを抱くために聖域へ通い続けていた僕は、王城から聞こえてくる寂しげな旋律にいつも安らいだ。
歌声の悲しみが共鳴したのか、込められた優しさに惹かれたのか。いまはもうどっちだったか覚えていない。
それでも、僕はその歌に焦がれていた。
だから、驚いたのだ。河原で泣いている少女の声が、直に自分の心を揺り動かしたことに。
河原の少女は、王城に住まう高貴な人間。
自分が最も関わるべきでない人に、しかし僕は何故か言ってしまったのだ。
「こんにちは。どうしてこんなところにいるの?」
少女は人間が嫌いだといって、人との繋がりを欲した。
少女は人間が汚いといって、人との信頼を築きたがった。
人の汚さを身を以て知っているはずなのに、それでも人間の優しさを諦めきれていなかった。
それは、僕と同じだ。
彼女は怒り、落ち込み、寂しがり、驚き……そして、笑った。
彼女の感情に触れて、僕は涙を流しかけたものだった。
ああ、まるで宝石箱みたいだな。
色とりどりの彼女の表情を見て、そう思った。
そう……僕は、彼女に恋をしていた。




