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友達でしょう



 王城専属細工師。それはルクスの育ての親であるシュバルが、その役目を果たしていた仕事だった。ルクスは嬉しさのあまりスキップ気味。


「じいさん。僕、頑張るから」


 浮かれている調子でつぶやいて、そのまま小屋へと戻ろうとする。しかし、帰っても次の依頼がないことを思いだす。しばらく悩んでから少し歩くことにした。

 すでに橋まで来ていたので、そこの川沿いに歩くことに。何気なく川岸を見たが、求める影も見当たらず、すこし残念な気分だった。

 気を取りなおして、歩き始める。相変わらず綺麗な川だと思い直した所で、二人の子供が喧嘩しているところに出くわした。

 どうやら、手に入れた菓子を奪い合っているようだ。やれやれ、とルクスが棒状のその菓子をひょいっと取って、真っ二つに折る。そして一つずつ子供たちに与えた。


「喧嘩はいけないよ?」


 子供たちはしばらくポカンとしていたが、喧嘩する理由を失ったため、二人でその菓子を咥えながら商店街の方へ戻っていった。

 ルクスは意識せず、笑いを漏らす。と、そこで、目の端を舞うラベンダー色。

 ばっと振り向いて見ると、そこには何もなかったが、ルクスはその方向――川の方へと歩き出していた。果たして川岸に座っていたのはティアだった。


「や、ティア。また会ったね」


 教えてもらったばかりの名前で呼びかけると、少女の方がぴくっと震えた。そのままゆったりとルクスの方を睨んでくる。


「……なによ」

「いや、用事はないけど……座っていいかな」


 川に向かって体操座りをしているティアの隣を視線で示す。ティアは目をルクスから川に戻した。


「………………勝手にすれば」

「ありがとう」


 よいしょっと座るルクス。年寄り臭い自分の行動に後から嫌になりながらも、ティアの隣で同じように川を見つめ続けた。


「……アンタ」

「ん?」

「……物好きね」


 発言の意味がつかめず、少女の顔を見るルクス。その顔もわからないという顔をしていた。


「用事もないのに、なんで私に構うの」


 そう言ってからその顔を見ていたルクスを睨む。それに若干怯みながらも、ルクスは正直に話した。


「友達だからね」


 その言葉は、ティアをかなり長い間呆気に取らせた。


「……っ! ば、馬鹿じゃないの!? 誰がいつアンタの友達になったって言うの!」

「なるならないの問題じゃなくて、会って話をしたらそれでもう充分だと思うけど」

「~~~~ッッッ!?」

「え、ど、どうしたの?」


 顔を赤くして顔を膝に埋めた少女を心配するルクス。ルクスに返事をしないまま、しばらく時間が経った。やがてその顔を上げると、ティアは寂しそうに川を見た。


「あの子たち、どこ行ったの」

「……あの子たち?」


 さっき喧嘩してた、とティアが口にした所でルクスも思い出した。


「やっぱり見てたんだ。あの子達は商店通りの方だと思うよ」

「……商店通り?」

「えーっと……貴族区からここまで歩いて来る時に人がいっぱいいるとこがあるんだけど……」


 ルクスの言葉に、ティアは思い至ったのか納得したような声を出した。ふぅん、と気のなさそうな返事を出して、ティアは再び川を見る。しかし、その視線が時折後ろへと向けられているのを見て、ルクスは微笑ましい気持ちになった。


「行ってみる?」

「え?」


 目を丸くしたティアの手を取って、ルクスは立ち上がる。そのままティアも引き上げて立ち上がらせる。そのまま歩き出そうと足を踏み出した。


「ちょ、待って! 私、行きたいなんて一言も――」

「いいからいいから」


 夕方の少し早い時間。今ならどの店も開いてるなと思いながら、ルクスは素直じゃない少女を連れて商店通りへと向かった。





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