表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

【前奏】  ~悪夢の日々~


「はぁ……はぁ……ッ!!」


 駆ける。鬱蒼とした真っ暗な森の中をひたすらに駆けた。日は随分前に沈み、目を凝らしてみても辺りの状況を把握することは出来ない。

 背後から迫る人の声。揺れて近寄ってくる火の明かり。聞こえてくる声には負の感情しか込められておらず、獲物を追うように張り上げられていた。それに混ざり、響き渡る銃声。

 それが聞こえるたび身をすくませながら、一人の少年とも呼べないような幼い子どもは走り続けた。

 一見ボロ布にしか見えない物を衣服として身にまとっている。それ以外にその子の身を守る物はなく、葉はふくらはぎを引き裂き、枝は頬を引っ掻く。森の植物によって次から次へと傷を増やしていく。すでに全身は汚れにまみれ、見るに耐えない有様だった。


「……ぅぐ…………」


 苦しみから出たうめき声か、悲しみから出た嗚咽かも分からない。ただ、いまだ未発達な足だけは動かし続ける。立ち止まるわけにはいかなかった。

 どこまで森に潜ったかも分からない。そもそもちゃんと奥へと向かっているのか。

 その目に絶望を映しながらも、前を見る。そこに存在するのは飲み込まれるような暗黒。先がどうなっているかわからない。もしかすると、次の瞬間崖のようになっているかも知れない。


 やっぱりこうでしか生きられないのかな。


 子供は体を動かしながら、静かに思った。頬に生温いものが滑った気がするが、気にするほどの余裕が無い。追っ手はすぐ側まで来ていた。


「出てきやがれッ!! 脳天ブチ抜いてやる!」


 そんな声が予想以上に近いところから聞こえ、身体が震えた。

 死にたくない。

 死にたくない。

 ただ思った。変わらず走り続けた。向かう先は暗闇。それが安全とは限らない。しかし、他の選択は残されていなかった。

 どうして。

 そう思うと、右足の裏にはしる激痛。思わずうめき声を上げて倒れてしまう。転んだ自分の後ろには大きく鋭い石が落ちていて、足裏からはひどい出血があった。


「おい! 向こうから音がしたぞ!」


 まずい。

 そう思って慌てて立ち上がる。足を付いた瞬間、意識が飛びそうな激痛が走ったが、歯を食いしばって耐える。声を出せる状況ではなかった。獣のような息遣いで再び走りだす。

 しかしそのとき、森にこだまする発砲音。

 一瞬、子供の体が浮く。そのまま倒れかけた身体を手をついてこらえた。


「……あッ……グゥ……!!」


 右肩が熱かった。地面になにか液体がポタッと落ちる。それがなんなのか考えないようにして、子供は傍らの木に手をつきながらよろめきつつも立ち上がった。

 どうして。


「おとなしくくたばりやがれッ!!」


 そんな声も近い。諦めることも出来ずに走りだす。肩が痛い。足が痛い。けれども――


「どうして……」

 どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。


 ふと、雨が降ってきた。頭上は木々の葉が覆っているはずであるのに、水が少年の頬を流れていく。止めどなく、流れていく。

 背後から声が追いかけてくる。明かりが追いかけてくる。足音が追いかけてくる。

 その子供はもうそれらを気にしない。ただ、背後から自分を飲み込まんとする虚無を恐れた。立ち止まれなかった。


「……う、……うぁ」


 少年は得体のしれないものに飲み込まれないようにと必死に走る。がやがて、


「……う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 自分を襲うとてつもない虚無感に押しつぶされてしまい、最後まで少年の目から絶望が消えることはなかった。





 邪悪の者と恐れられ、忌々しき存在とされた。そんな彼は人の手に追われ、森の中へと沈んでいく。





 いかがでしょうか。短めの文章で更新していきたいと思います。これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ