出発
伯爵が部屋を出てしばらくすると
3人の侍女が入ってきた。
「おはようございます。
早速支度を始めさせていただきます。」
1番年長の女性がリリアーナに挨拶をすると
彼女が答える間もなく2人がリリアーナを
浴室に連れて行った。
「あ、あの。自分でやりますので。」
「まぁ、そんなこと奥様に許すことは
できません。伯爵様に叱られてしまいます。」
最初に挨拶をした女性が問答無用と
言うように返事をする。
リリアーナはしたかなく言われるがまま
身体を磨き上げられたのであった。
入浴した後、部屋に戻ると目の覚めるような
鮮やかなターコイズ色のドレスが用意されていた。
「伯爵様が奥様にお選びになったのですよ。」
「ほんと、とても美しいわ。」
「さ、奥様。このドレスを着るための
準備をしましょう。」
髪を結い上げ、下地をぬり、
夜会用に濃いラインとアイシャドウを入れ、
仕上げにピンクの口紅をぬる。
結婚式の時と同様
リリアーナは人形状態だった。
辛抱強く座っていると
「奥様、終わりました。
あまり時間がありませんので、
早速ドレスの着付けを始めましょう。」
と侍女の
1人が話しかけてきた。
気が付くと
もう部屋に差し込む光が
茜色になっている。
あらためてドレスを眺めると
とても素晴らしいものだということがわかった。
肩はパフスリーブになっていて、
ウエストの辺りはリリアーナの
腰の細さを強調するようなデザイン、
そこから広がるドレープはゆったりとして
豪華である。
銀の糸で細かく刺繍が施され
シンプルながらも気品あるドレスになっていた。
3人がかりで着付け終わるころには
既に日は暮れかかっていた。
「どうもありがとう。ご苦労様でした。」
リリアーナが侍女を下がらせ
一息ついていると伯爵が部屋に入ってきた。
ドアを閉めて彼女の
方に向いた伯爵は少し目を見開いて息をのんだ。
リリアーナが美しいことはわかっていたものの
改めて見ると人間離れしたその容姿に心を奪われる。
リリアーナは入ってきた夫が固まったまま動かないことに
不安を感じていた。
「どこかおかしいでしょうか?」
沈黙に耐えきれず
彼女は口を開いた。
すると伯爵はハッと我に返ったような素振りをみせた。
「いや、なんだ、その。いや。」
「何でもおっしゃって下さい。」
「いや、その、あまりにも美しくてだな。
おほん。そろそろ行こうか。」
こうして宮廷に出発することになった。