転移先は魔王の城だった ~魔王の娘と言葉の勇者~
魔王の娘と異世界人の勇者。
「あ、あのっ。どこに向かっているんですかっ」
後を追いながら、わたしは聞く。
けど、『相手』は聞いてくれない。振り向いてくれることすらない。
ただ、わたしの前を歩き、『どこか』へ向かっている。
わたしより少しだけ背の高い『相手』、カラダつきも、わたしみたいに弱々しく、オーグにでもぶつかってしまえば体が裂けてしまうんじゃないかって思ってしまう。
黒いフードを被り、ただ黙って、『どこか』へ向かっている。
訳が分からない。
「わたし、今日産まれたらしい」
『父様』の城から抜け出し、『あのヒト』が隠れて住んでいる家に着き、何を言ったらいいのか分からなかったわたしは、なんとなく言った。そう、なんとなく。
今日産まれたと言っても、本当に今まさに産まれた訳じゃない。
もちろん、13年前の今日ということ。
『ヒトの国々』で言ったら、 13年前の今日。
『父様』に言ったら「ニンゲンと同じ考え方をするな! ニンゲンは滅ぼすものでしかないっ!」て怒られそうだけど、『このヒト』なら大丈夫と思って。
だって『このヒト』は…。
わたしの言葉を聞くと、
「じゃあ、君の誕生日を祝ってあげよう!」
それだけ言って、『どこか』へ歩いて向かっている。
本当、いつも優しいんだけど、何を考えているのか分からない。
『この世界』のヒトじゃないから、かな?
この魔物しかいない国にはいないはずの『種族』で、更にこの世界にはいないはずの、それは。
「着いたよ」
急に立ち止まる。
「きゃっ」
止まれず、わたしはぶつかってしまう。豪快な『父様』の『娘』にふさわしくない、そんな声を。
「さあ、誕生日を祝おう。
年に1回の誕生日を、このレストランで」
フードを被り顔を隠しているから、表情はあんまり分からない。
けど、なんとなく笑顔なんだろうって感じる。
「レストラン? 祝う?」
聞いたことのない言葉、異世界語かもしれない。そして、祝う。祝うは、分かる。この国のモノたちも使うから。
「まあ、勇者の僕が、魔王の娘の君を祝うのは、奇妙かもしれないけどね」
『そのヒト』、『勇者の少年』は『魔王の娘』のわたしに言った。
「空いてる所はないかな」
「アイテルトコロ?」
「2人、いや、2体きりで食べたいんだ」
「ナゼ? ミンナデタベル、ウマイ」
「お願い。お金は倍にするから」
「ナライイ、コイ」
「ありがとう」
『言葉の勇者』、全てのものと話せ、また、『火を出せ』とか言うと本当に火を出せてしまう、そんな『勇者』にしかない、特別な能力。
言葉を思いのままに操る。
その『特別な勇者』が、本来なら敵対するはずの『魔王の娘』と2人で食事をしたいという。
不思議な感じのまま、わたしと彼は、体の大きな魔物の後を歩く。
勇者だしヒトだから、バレたらすぐに戦いになるだろうけど、まさか勇者だとは思えまい。
それに、魔物は基本単純なバカだし。知性があるのは魔王の娘、つまりわたしくらいじゃないのかな。
「ふう、やっと2人きりになれた」
息を吐き、大胆に顔を全て見せる。
短く、黒い髪。わたしより少し上の歳(15歳らしい)、痩せすぎず、太すぎず。
そして、肌が綺麗な。
『異世界人』らしい風貌。
「お菓子ってある?」
席にそれぞれ着くと、勇者の少年、アラタは言ってくる。
お菓子、甘いやつか。
わたしは首を横に振る。
「参ったな、どうやって祝おう」
困った顔で頬をポリポリ、とかく。
「好きなものを食べようか、もちろん僕が全部払うよ。キミから、よくお金をもらっているから、いっぱい食べよう。初めての店だけど、何があるかはなんとなく分かるよ、想像で」
そう言って、ニコッと笑いかけてくる。
穏やかで、優しそうな。勇者なのに戦いとは無縁そうで。
「本当は、人間の国で祝いたかったんだけど、目立ったらいけないし、この国で。それに、人間の国でキミが見られたら何されるか分からない。
あるもので精一杯楽しもうよ」
「あ、あのっ」
「うん?」
「誕生日を祝うって、何ですかっ」
少し、静かになる。
遠くから、魔物たちの笑い声や話し声が聞こえてくる。仕切りがあって2人きりだけど、ここには魔物しかいないんだと再確認してしまう。
アラタさんは少し困ったようにしながら、
「産まれた日を祝う」
「なんで」
「いや、だってさ、産まれるのってすごく大変だし、奇跡なんだよ? それを祝うんだ。この世界はどうか分からないけど、僕のいた日本って国はそうだった。ケーキっていうお菓子を皆で食べて、プレゼントも皆からもらって」
知性がある『ヒト』らしい。
「…初めてです、誰かに産まれたことを祝ってもらうの」
「勇者が魔王の娘を祝うのは変かもしれないけど、まあ、空き家をくれたし。
産まれてくれて、ありがとう」
にこやかな笑顔にわたしは顔を赤くしながら、うなずく。
誕生日を祝ってもらう。
なんて素敵なことなんだろう。
それを、このアラタさんに…。
そして、アラタさんは再び顔を隠し、
「いっぱい食べよう、楽しみながら」
「はいっ」
ニンゲンから奪った『馬』の肉や、森の木についていた『実』を2人きりで食べる。
魔物はニンゲンを食べない、食べようとすら思わない。ニンゲンはゴブリンとかを食べるらしいけど。
そう教えると、
「よかった。人間として安心するよ。僕が食べられることもなさそうだ」
ホッとされた。
単純な魔物しかいない国だから、雑な味。
だけど、アラタさんに祝ってもらったことだけで、わたしは満足だった。
「この幸せが、いつまでも続くといいんだけどなぁ」
「わたしもです」
なんて、
勇者らしくないことを異世界から来た勇者は思い、
ヒトを滅ぼうとしている魔王の娘らしくないことを思ったのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




