《五つの歌、五つの光》
風は止み、世界が息をひそめた。
夜の空気は凍りついた鏡のようで、そこに五人の少女が立っていた。
それぞれの胸には、淡く紅く光る紋――妖精との契約の印が刻まれている。
ルクシアが、静かに息を吸い込んだ。
「――響け、音よ。彼方より我が声を渡れ」
彼女の声が夜気を震わせる。
低く、荘厳で、まるで祈りと呪いの境を歩くような旋律。
その音に呼応するように、地を這うような震えが走り、
彼女の髪が銀の光を放った。
ミリアが続く。
彼女の歌は鋭く、刃のように空を裂く。
透きとおる高音が重なり、音の波が輪を描くように広がる。
その輪の中で、青い燐光が立ちのぼり、
やがて彼女の背後に、光を纏った妖精の姿が浮かび上がった。
フェルヴィアの歌は力強く、地を揺らした。
戦場の太鼓のように低音が脈打ち、
その声が重なった瞬間、大地の裂け目から紅の光が吹き上がる。
炎の羽根をもつ妖精が、彼女の影から立ち上がった。
リレアは両手を胸に組み、震える声で歌う。
それはかすかに震えて、しかし誰よりも純粋だった。
彼女の歌は水面に落ちる一滴のように静かに波紋を広げ、
白銀の妖精がその波紋の上に舞い降りた。
そして最後に、セレナ。
彼女の歌は他の四人とは異なっていた。
音が光になり、光が祈りのように天へ昇る。
それはまるで神へ捧げる讃美歌――いや、滅びゆく者への鎮魂。
その背後に現れた妖精は、まばゆい金の羽根を持ち、
光と闇の狭間でゆらめくように佇んだ。
五人の歌が重なった瞬間、空が震えた。
異なる旋律が、ひとつの和音を奏でる。
それは人の耳には届かない、世界そのものを揺るがす音。
ルクシアは静かに短剣を抜いた。
「――来たれ、我が魂の影」
そして、歌の終わりとともにその刃を胸の紋へと突き立てた。
刹那、光が迸る。
痛みを超えた陶酔の中で、彼女の身体から妖精が浮かび上がる。
銀の光を纏い、鎧を纏った戦乙女のような姿。
他の三人も次々に短剣を胸へと刺し、
その瞬間、四つの光が夜を裂き、五人の周囲を白く染めた。
妖精たちは鎧を纏い、剣や槍、弓を手に取る。
戦闘のための姿――“音の妖精”が“武の妖精”へと変じた瞬間。
美しさと恐ろしさが交錯するその光景は、まるで祝福と呪詛の儀式。
そして、五人の歌はなおも続いていた。
高く、強く、哀しく。
その旋律は、夜空の星々を震わせ、
やがて、どこかで見えない誰かの涙を誘う。
――歌は祈りであり、戦いであり、滅びの序章。
そのことを、まだ誰も知らなかった。




