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戦勝の地 にて ―讃えの言葉と沈黙の視線―


白い霧がかかる丘陵地に、腐臭が立ちこめていた。

戦線が近づくにつれ、空気はよどみ、風が吹いても清らかさを持たなかった。


馬車を降り、歩を進めるルクシアたちの前には、無惨な光景が広がっていた。

黒焦げになった死体、四肢を引き裂かれた兵士、武器を持ったまま絶命したまなざし。

地面は赤黒く染まり、戦いの激しさと、何か異質な力の痕跡が残されていた。


「こんな……これは……」

フェルヴィアが口元を手で覆い、後ずさる。


リレアは一歩も動けなくなり、その場にしゃがみこんだ。

蒼白になった顔には、涙と吐き気が交錯する苦しみが浮かんでいた。


ミリアとセレナは無言だった。

ただ、セレナの瞳は静かに怒りを湛え、ミリアは拳を握りしめていた。唇が震えている。


ルクシアは一人、地に膝をつき、深く頭を垂れた。

「私は……この人たちを……称えに来たのに……どうして、こんな……」


彼女の隣で、ユリウス・ヴァルグレイヴ副官が声を低くした。

「……この戦線には、隣国の特殊部隊が投入されたと聞いています。

 彼らは新兵器の試験を兼ねていたのでしょう……アニマエウンヴラエが不在な分、実験場として選ばれた」


「実験……?」

ルクシアがかすれた声で問い返した。


「見てください、死体の損壊状態。これは斬撃でも炎でもない。……おそらくは“震波”か、“毒霧”」


フェルヴィアが悲痛な声を上げた。

「こんなの、戦いじゃない……これは、悪魔のやり方よ!」


リレアは小さく嗚咽しながら、静かに首を振っていた。



やがて、戦勝部隊の生き残った兵たちの前にルクシアは立った。

戦場に臨時に作られた野営地。焼け焦げた死体の臭いと幟が風に揺れている。



彼女は震える唇を無理に結び、声を上げた。


「あなたたちの勇気を、私は決して忘れません……。この勝利の代償を、決して無駄にはしません……!」


しかし、その言葉に、兵たちはほとんど反応しなかった。

彼らの表情は無言で、冷ややかだった。


ある一角に固まっていた隣国の援軍兵たちは、特に冷たい視線を彼女に向けていた。


その中の一人が、小さく呟いたのがルクシアの耳に風に乗って届いた。


「……魔女め」

「あれが魔女…」

隣国の兵士達は口々にその言葉を呟いていた…


その一言一言に、ルクシアの瞳が揺れる。

誰が言ったかはわからない。だが、それは彼女の胸に鋭く突き刺さった。


「……わたしが……魔女……?」


声には出さなかったが、彼女の目は足元を見つめながら曇り始めていた。



ユリウスはその呟きを聞き逃さなかったが、口を閉ざしたまま傍に立ち続けた。

今は言葉では何も変えられないと知っていたからだ。


ルクシアの小さな背が、兵士たちの冷たい風にさらされて震えていた。

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