《血煙の村》妖精使いを消すためにノクティア達に襲撃される人々
夜の帳が下りた村に、炎の光がゆらめいていた。
悲鳴と泣き声が風に乗り、湿った木々の間をすり抜けていく。
「逃がすな。妖精使いを匿う者も同罪だ」
低い声が響いた。ノクティアだった。
彼女の背後には、黒い鎧に黒い外套を翻した四つの影――アニマエウンヴラエの仲間たち。
その瞳は赤い焔のように光り、夜の暗さを背景に妖精の姿ががきらめいていた。妖精達も夜空から村を取り囲み見つめていた。
ヴェスペラが手を上げると、妖精から一陣の黒風が吹き荒れ、家々の扉が一斉に吹き飛んだ。
悲鳴。幼い子の泣き声。
光を失った街灯の下に、怯えた村人たちが膝をつく。
「この村に“歌う者”がいると報告を受けた。――出せ」
ノクティアの声は低く、感情の欠片もない。
だが、その眼差しはどこか遠く、凍った水面のように揺らいでいた。
沈黙。誰も答えない。
その瞬間、タキタが笑った。
「いいわ。出ないなら、燃やせばいいだけ」
妖精の炎が夜を裂いた。屋根が弾け、木の柱が折れる。
家々が次々に赤く染まり、光と煙が村を包む。
そこに――小さな影がいた。
怯えながらも逃げず、胸に短剣を抱いた少女。
「見つけた」
ヴェスペラはそういうと、少女を首を地面に押さえつけた。
ノクティアが近づき、短剣を引き剥がそうとする。それでも少女は力いっぱい握りしめていた。
「妖精使いか」
少女は震える声で答えた。「ちが……う、ただ……歌が、好きで……」
ノクティアの瞳に一瞬だけ影が落ちた。
だが次の瞬間、ヴェスペラが少女の腕を掴み、無理やり立たせる。
その首筋に、黒い印が刻まれている――妖精との契約の痕。
「やはり……」ノクティアが低く呟く。
タキタが黒い刃を抜く。「命乞いは無意味よ」
少女が叫ぶ。
「どうして……妖精は……人を救うはずなのに!あなたも妖精使いなのに!」
その叫びが夜に溶ける。
刃が閃き、風が止んだ。
ノクティアはその光景を無表情に見つめていた。
だが、倒れた少女の傍らで、淡い光が一瞬だけ灯る。
妖精だった。
小さく、儚く、まるで悲しみの涙のように揺れ――やがて消えた。
ノクティアの手がわずかに震えた。
誰もそれに気づかない。
「次の村へ向かう。王の命令だ」
冷たく言い放ち、ノクティアは背を向けた。
背後で、焦げた木と灰が崩れ落ちる音がした。
それはまるで、滅びゆく“歌”の断末魔のようだった。




