《灰の残響》ノクティア達に襲撃された村に出会うルクシア達
昼なお暗い森を抜けた先、焦げた匂いが鼻を突いた。
ルクシアは無意識に歩みを止め、視線を上げた。
「……村?」
ミリアの声が震える。
そこにあったのは、かつて人の営みがあった痕跡――だった。
屋根は焼け落ち、黒く焦げた壁が斜めに崩れ、地面には灰と血の跡がまだ残っている。
風が吹くたび、焼け焦げた木々がきしんだ。
「アニマエウンヴラエの仕業だな」
セレナが淡々と呟いた。
その瞳の奥には怒りも哀れみもない。事実をただ述べるだけの冷たい色。
ルクシアは何も言わず、ゆっくりと膝をついた。
焼けた土の上に、炭のようになった短剣が転がっている。
それを見て、彼女の手が震えた。
「……妖精使いの……」
短剣の柄には、見覚えのある紋章が刻まれていた。
――妖精との契約を示す、同じ印。
その時だった。
灰の山の影から、細い声が響いた。
「……化け物……!」
振り向いた瞬間、少女がルクシアに飛びかかってきた。
骨ばった腕が、錆びついたナイフを振り上げる。
ミリアがとっさに少女の手を掴み、押さえつけた。
「やめて! 私たちは敵じゃない!」
「嘘よ! あんたたちも、あの黒い女たちの仲間なんでしょ!?」
少女は泣きながら叫ぶ。
「姉さんを……姉さんを返してよ! 歌ってただけなのに……あいつら、妖精使いだって言って……!」
その言葉に、ルクシアの心臓が締めつけられた。
少女の涙が、焼けた地面に落ちて、音もなく消える。
――歌っていただけなのに。
ルクシアは震える手で短剣を拾い上げた。
黒く焦げて、もう妖精の光は宿っていない。
それでも、胸の奥に熱が灯る。
「……許せない」
ルクシアの声は低く、かすれていた。
「アニマエウンヴラエ――あの女たち。私は……彼女たちを、必ず止める」
ミリアが彼女の横に立ち、強くうなずいた。
「私も……一緒に戦う。もう誰も、こんな目に遭わせたくない」
二人の瞳には同じ光が宿っていた。
しかし、セレナは少し離れた場所で、燃え残りの壁にもたれていた。
風が彼女の髪を揺らす。
「……正義、ね」
その声は冷ややかで、どこか投げやりだった。
「あなたたちはいつもそう。正しいと思えば、それがすべてになる。
結局は誰かを燃やし、泣かせるだけなのに」
ルクシアは答えなかった。
ただ、拳を握りしめたまま、灰の中で沈黙を続けた。
遠くで、妖精の羽音のような風が吹き抜ける。
それはまるで、焼かれた村に残る誰かの“歌”の名残のようだった。




