『断絶の顕現』アニマエウンヴラエのほんとの姿
燃えさしの戦場に、甲高い金属音が響いた。
刹那、黒金の鎧が真っ二つに割れ、地に崩れ落ちる。鉄と血と魔術の混ざった匂いが風に乗り、辺りを満たした。
現れたのは、もはや「人の顔」とは呼べぬものだった。
かつて端正だったはずの頬は焼け爛れ、右目の周囲には妖精の羽根のような器官がねじれ、皮膚に異様な模様を浮かべていた。
それは、人体に魔術の力を無理やり封じ込めた結果だった。
人でありながら、妖精の器とされた者の末路。
「見ろ……」
嗄れた声が、濡れた血のように低く漏れる。
> 「これが、“おまえの父”の作ったものだ」
その言葉は、雷鳴よりも強く、ルクシアの胸に打ち込まれた。
彼女は息を呑み、震える手から短剣が落ちた。
乾いた音が、瓦礫の上で虚しく響く。
彼女の瞳から光が消え、唇がかすかに震えた。
王女としての誇りも、正義への確信も――いま、この瞬間、崩れ去ろうとしていた。
「おまえは、その血を継いでいる」
「いずれ、同じことをする……いずれ、同じ目をするんだよ」
その声は、呪いのようにルクシアの耳にこびりつく。
「――やめて!!」
轟くような怒声とともに、セレナが前に出た。
その拳は、怒りと憎しみを込めてルクシアに向けられていた。
> 「全部、おまえの父親のせいなんだ!! 私の一族を……友を……家族を……!」
彼女の瞳は涙に濡れていたが、その怒りは偽りではなかった。
「セレナ、やめて!!」
フェルヴィアの声も届かない。
だが、その拳が届く寸前――小さな身体が割り込む。
「……ルクシア様に、触れるな……!」
ミリアだった。
震える足で立ち、両手を広げて、セレナを食い止めた。
> 「セレナ……たとえあなたでも、ルクシア様を傷つけることは許さない!」
刃のように鋭い言葉だった。
だが、セレナは止まらない。拳を振り上げ、叫んだ。
> 「あんたは! あんたは何も知らないくせに!!」
「……うるさいな」
その声は、彼女たちの背後から聞こえた。
影の女たち――アニマエウンヴラエの一人が、嗤っていた。
> 「滑稽ね。自分の傷に耐えきれず、仲間割れ? 哀れな人たち」
別の者が言う。
> 「やっぱり人間は脆い。感情の生き物。だから壊すのが、面白い」
乱れた呼吸、混乱した心、見失いかけた信念。
炎の中、敵と味方の境界が揺らぐ。
その只中で、ルクシアは崩れ落ちるように膝をつき、胸元を押さえた。
(私は……私はいったい、誰なの……?)
彼女の手は、震えていた。
それでも、倒れてはいけなかった。
目の前の怒り、後ろの信頼、それぞれが彼女を支えていたから――。




