訪問者と剣の少女―
辺境の森の中。
古びた石造りの館が佇んでいた。
その館の門前を、木陰からじっと見つめている一人の少女がいた。やがてその少女は意を決してか門にに近づいてきた。
旅の汚れだろうか、くすんだ外套が翻り、短く切った髪が風に煽られるたび、彼女の決意を映すように瞳が強く輝いた。
「止まれ! 何者だ!」
甲冑をまとった兵士たちが一斉に槍を突きつける。
「ルクシア様に……会わせてください!」
「私は……ミリア。ミリア・セルヴァーナです!セルヴァーナ辺境伯の者です!」
少女の声は震えていたが、揺るぎのない必死さを帯びていた。
そのとき、館のから静かに姿を現した影があった。
漆黒の髪、冷ややかな蒼の瞳――
かつて「歌姫」と讃えられた気品の面影を宿しつつも、その眼差しは氷の刃のように鋭い。
ルクシア・カエレスティア・レグナリア。
辺境伯フォルネウスが現れて、少女から差し出された封書を受け取る。
中身を確認した彼はわずかに眉をひそめ、それでも毅然と告げた。
「……放してやれ。」
兵士は掴んでいた少女の腕を離した。解放された少女――ミリアはまっすぐにルクシアへ歩み寄る。
辺境伯の剣が彼女の目の前に立ちはだかった。
「私は……ミリア。ミリア・セルヴァーナです」
剣を前にしても動揺することなくひざまづき頭を垂れると、震える声で言った。
「私を……ルクシア様の剣にしてください。どうか……!」
ルクシアはしばし無言で彼女を見つめる。
冷ややかな瞳が、ひたすらに縋りつく少女を射抜く。
「……理由を聞かせて。あなたの命を投げ出すほどの価値が、私にあるとでも?」
その声音には容赦のない嘲りが混じっていた。
しかしミリアは顔を上げる。
「……あの歌を、覚えています。
ルクシア様が歌っていた祈りの歌を……。
私は……片隅で、ずっと聴いていました」
一瞬、ルクシアの瞳にわずかな揺らぎが走る。
だがすぐに表情を引き締め、冷たく言い放つ。
「歌を聴いただけで剣になる? 滑稽ね」
そう言いながらも、彼女はゆっくりと手を差し伸べた。
「それでもなお望むのなら――覚悟を見せなさい。
復讐のために血を浴び、汚れ、私と共に地獄へ堕ちる覚悟を」
「……はい! 私は殿下の剣となり、盾となります!」
ミリアの頬が紅潮し、その瞳は熱に潤んでいた。
その眼差しは憧れを超え、崇拝に近い。
(あなたは私の幸せ……それを壊すものは、私の幸せを奪うもの。
誰であろうと許さない。たとえ、世界そのものだとしても……)
その心の奥底から立ち上る声は、純粋すぎる祈りのようであり、同時に危うい狂気の火種でもあった。
こうして――ミリアはルクシアの剣となり、盾となった。




