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崩壊の秘密

《王の間にて》


 静寂。

 玉座の間は広すぎるほどに広く、ただ風が吹き抜ける音だけが響いていた。

 燃えるような戦火の夜をくぐり抜け、ノクティアはその足で王のもとへとやってきた。

 彼女の外套は焼け焦げ、血に濡れ、白かった頬には黒い亀裂のようなものが走っている。

 それでも、その瞳は澄んでいた。怒りでも恐怖でもない、静かな決意の光がそこにあった。ノクティアは次々と鎧を外していく。そして腕や胴に巻かれている布をほどいていく。そこから現れたのは前よりもまして肉塊となった体の一部だった。


 玉座に座る王は、重く息を吐いた。

 彼の背後には、金と紅で飾られた大きな旗が垂れている。

 それはこの国の象徴――かつては神の加護を意味した旗だった。

 しかし今、その布の端には血のしみがついていた。


「……お前たちは、選ばれた者だった」

 王は低く、しかしどこか誇らしげに言った。

 「お前たちは、最も強い力を持つ器だったのだ。だからこそ、最も多くの“改良”が施された。

 妖精との結合実験――成功と呼ぶには、少々代償が大きかったようだがな」


 ノクティアの指先が小さく震えた。

 指の間から肉がこぼれ落ちる。

 それが何を意味するかを、彼女はもう知っていた。

 しかし、声を荒げることはなかった。

ノクティアはただ無言だった…

そしてついに口を開いた。

「この先はどうなる…」

ノクティアのその問いにはわずかながらの望みを手繰り寄せようとする健気さがどこかに含まれていた。

「尋ねるまでもなかったな…」

ノクティアはそういうと再び布を体に巻き始め、鎧をつけ始めた。

 


 王は頷きもしない。ただ薄く笑うだけだった。

 「お前たちは国に貢献した。だが、お前たちの時代は長くは続かぬ。

 お前たちの存在そのものが、人と妖精の境を曖昧にする。いずれ、消えるべき運命なのだ」


 ノクティアは玉座の下で深く一礼した。その礼はこの場に場違いのような雰囲気を醸し出していた。

そしてその背中はまるで、壊れかけた人形のようにかすかに軋む。


「――わかった…ではそうなることにしよう…私たちは人でも妖精でもなく、そのどちらからも拒まれた存在。 いずれ滅びる。それが摂理ということだな…」


 そう言って踵を返したそのとき、王が静かに声をかけた。


 「お前たちだけではない。道連れはもう一人――お前たちと同じ者がいる。

 その者もまた、いずれ崩れていく運命にあるだろう」


 王の言葉は、まるで何かを試すようにゆっくりとした口調だった。


 ノクティアは振り返らなかった。

 ただ、その瞳に一瞬だけ微かな光が宿る。


「……そうか」

 その声には、驚きも怒りもなかった。

 ただ、遠い確信のような響きがあった。


 ――ルクシア。


 その名が、心の奥で静かに形を取った。

 彼女もまた、自分たちと同じ“呪われた肉塊”を持つ者。

 ノクティアはそう悟った。


 背を向けたまま、ノクティアは玉座の間を去る。

 その歩みのたびに、床に肉が落ちていく。

 王はそれを見送るだけだった。


 炎のような夕陽が差し込み、崩れゆくその背中を照らす。

 それはまるで、滅びへと歩む女王の行進のようだった。

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