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『拘束の刻印』国王を殺そうとするヴェスペラ



 深夜の王宮は、冷え切っていた。


 月光すら届かぬ王の間。

 玉座の前に、黒衣の女が立っていた。赤く波打つ髪が、灯りもない空間でかすかに揺れている。

 ヴェスペラ――アニマエウンヴラエの一人。怒りを鎧のように纏った彼女は、静かに足を踏み出す。


「王よ。いや、宰相殿と呼ぶべきかしら」


 玉座に座るのは、年老いた国王。

 だが、その目は鈍っていない。光も、怯えもない。

 ただ、冷ややかにヴェスペラを見つめている。


「まさか……私の前に、たった一人で来るとは。ノクティアの尻拭いか?」


 王の声には、嘲りが滲んでいた。

 その言葉がヴェスペラの堪忍袋を破る。


「ふざけないで。あなたを殺しに来たのよ。ここで、今すぐに」


 彼女は音もなく腰の刃を抜いた。

 魔術の加護が施された曲刀が、暗闇の中で微かに鈍く光る。


「私たちを実験台にし、名ばかりの“兵器”に変えた。その報いを受けてもらうわ」


 その瞬間――


 王の瞳が淡く輝いた。


 ズン、と。

 空気が沈んだ。


 その途端、ヴェスペラの身体ががくりと崩れる。


「なっ――」


 喉が詰まり、声が出ない。

 腕が上がらない。

 足が、まるで地面に縫い留められたかのように動かない。


「……なんだ…これは、なに……ッ?」


 ヴェスペラの瞳に、狂乱とも恐怖ともつかぬ光が宿る。


 「……知らなかったのか。哀れなものだ。お前たちに“拘束の刻印”を仕込んだのは、私だ」


 国王の声は低く、感情は一切なかった。


 「まだ私が宰相だった頃。お前たちを“制御”するために……秘密裏に刻印を施した」


 「う……ッ!」


 口の中から血が滲む。

 意識が白くなっていく。

 全身を縛りつけるその力は、魔力でも肉体でも抗えぬ“命令”だった。


 「お前たちに自由など最初からない。お前たちは兵器であり、私の所有物だ」


 王は立ち上がりもしない。ただ、椅子の上からその命乞いのような呻きを見下ろしていた。


 「ノクティアは、そのことを知っている。だからこそ動かない。

  ルクシアを前にしても、お前たちを守ろうとしたのは――“無意味”だと分かっているからだ」


 ヴェスペラの目に、うっすらと涙が浮かぶ。

 それは、怒りでもなく、恐怖でもない。

 裏切られたことへの絶望。


 「もう戻るがいい。お前に許された行動は、命令の範囲内だけだ。

  二度と私の前で、剣を抜こうなどと思うな」


 指を鳴らすと、束縛の力がふっと解けた。

 ヴェスペラはその場に倒れ込む。


 崩れた彼女の肩が震える。

 拳を強く握りしめ、唇を噛みしめる。


 それでも、刃はもう握れなかった。


 (……私たちは、まだ……奴の掌にいるのか……?)


 絶望の淵で、ヴェスペラの瞳は暗く染まっていった。

一族の運命はまだ続いていたのかと彼女は愕然とした。

1人また1人と連れて行かれた。

ノクティアもタキタも…みんな…

何人も…

残ったのは5人だけ…

そしてこんな姿に…

やっと生き残ったのにまだ無力のまま…

全て壊してやる…

なにもかも…


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