紅き盾、凍れる誓いセレナの戦い
◆戦場──血と灰の空
吹きつける風は熱く、だが空はどこまでも灰色だった。
黒いマントを翻し、ノクティアが踏み込む。
剣が唸りを上げて振り下ろされた――
「ルクシア、下がって!」
セレナは咄嗟に身を躍らせ、ルクシアを突き飛ばす。
刃は彼女の肩を裂いた。白いマントに血が咲いた。
「セレナ……どうして……」
地面に転がったルクシアの声は、混乱と恐怖に揺れていた。
だがセレナは答えない。ただ、傷ついた肩を押さえながら、剣を構える。
「セレナ。まさかあなた、本気で――」
ノクティアの声が低くなる。
「……王女をかばう気か?」
「かばうのではない。守るのでもない。私は、私の意志で――ここに立つ!」
その声は震えていない。
刃の痛みは激しく、血が指先を濡らしていたが、意志は凍てついた鋼のようだった。
◆回想──赤い月の夜、老いた声
> 「セレナ、おまえはまだ子供だ。けど……子供だからこそ、聞いてくれ」
おじの声は、昔にしてはやけに老いて聞こえた。
「憎しみに取り込まれるのは簡単だ。生きてるってだけで、世界はたくさんの怒りをよこしてくるからな」
「でも……殺したあとに残るのは、空っぽだ」
セレナは焚き火を見ていた。赤く燃える小さな火に、まるで自分の命が重なる気がしていた。
> 「その火を、ただ怒りで燃やし尽くすな。どうか……燃やし方を、選べる人になってくれ」
あの夜、セレナは返事をしなかった。
けれど今、ようやくわかる。
火を「刃」にするのか、「光」にするのか。
選ぶのは、今この瞬間だ。
◆戦場──裂ける時の中で
「裏切り者……!」
ミセリアが悲嘆の声を上げて突撃してくる。
その瞳にあるのは、苦しみと裏切られた絶望。
「違う……私は、選んだだけだ!」
セレナは剣を横に振る。火花が散り、次の瞬間、ヴェスペラが横から襲いかかる。
鋭い槍が空を切る。セレナは寸前でかわし、地面を転がった。
背後で、怯えるルクシアが叫ぶ。
「行かないで、セレナ!」
その声に、一瞬、心が揺らぐ。
だが次の瞬間、フリナの双剣が突き出された。
「目障りだ。お前もあの王女と同じだ、害悪だ!」
「害悪かどうかは……私が決めるッ!」
全身に力を込め、セレナは反撃の剣を振るった。
一閃――フリナの腕から血が飛ぶ。彼女は舌打ちして退いた。
一瞬の静寂。
タキタが沈黙のまま、鋭い目でセレナを見る。
その眼差しには、軽蔑も、憐れみもない。ただ、「観察」。
「……じゃあ、証明してみせろ」
ノクティアが言う。「あの子を守る理由を。戦う理由を。生き残る意味を」
セレナは答えない。
ただ剣を両手で構える。その視線はまっすぐに前を見据えている。
「──見せてやるよ、今ここで!」
そして、再び交わる刃と刃。
運命はこの夜、大きく軋みながら転がり始めた。




