焚き火の輪のなかで(改稿)
ぱち、ぱち――焚き火が夜の静けさを裂いて燃えていた。
月のない空の下、森の暗がりに浮かぶように、五人が輪になって座っていた。
フェルヴィアが乾いた木をくべると、炎が一瞬跳ね上がった。
その明かりに照らされたルクシアの横顔が、ふと揺れる。
「……この戦いが終わったら……」
誰に向けるでもないその言葉に、焚き火の輪がわずかにざわついた。
「ルクシア?」
フェルヴィアが口を開く。「あんたそういうの、考えるタイプじゃなかったでしょ」
「……明日を見ない人だったのに…」
ミリアの声には、少し驚きと警戒がにじんでいた。
ルクシアは何も返さず、火を見つめていた。
彼女の目には、まるでそこに何かが燃えているようだった――ただの薪ではなく、もっと別の、重くて、償いのようなもの。
しばらく沈黙が続いたあと、リレアが小さく口を開く。
「……私は、森に帰る。フェルヴィアと一緒に」
その声は、湖面に落ちた雫のように静かだった。
「おー、英雄扱い間違いなし! “黒い森の双花”、なんてどうよ!」
フェルヴィアが笑うと、リレアは眉をひそめたが、その頬にはかすかな赤みがさした。
「そんな名前、いらない……」
セレナは何も言わないままだった。
ルクシアがちらと視線を向けると、彼女は火を見つめたまま、まるで沈んでいくような声で言った。
「……何も、考えてない。考えられない、のほうが正しいかな」
その目は空虚で、まるでどこか別の場所を見ていた。
そして、ルクシアが、ぽつりと――本当に、何気ないように言った。
「私は……終わりにしたい」
「復讐だけが目的だった。でも、今は……何もない」
その言葉に、火がぱちんと爆ぜた。
フェルヴィアが笑う。
「えっ? 戦いが終わったあとの話をしてるのに、終わりにするって、おかしいじゃん。なんか変な言い方」
けれどルクシアは笑わなかった。
誰の顔も見ず、ただ焚き火を見つめていた。
そして、その表情に浮かんでいたのは、言葉にできない痛みだった。
“終わらせたいのは戦争じゃない。
妖精を、戦いの道具にすることも。
自分が王になる未来も――
わたしという存在そのものさえも。”
声にならなかった想いが、夜の闇のなかに溶けていく。
風が少し吹いた。
誰もそれ以上、何も言わなかった。
その夜、焚き火が消えたあとも、ルクシアはひとり、長く目を閉じなかった。




