黒い契約国王暗殺後の密談
国王を殺し、王族を皆殺しにした黒い影達は姿を消していた。
王の離宮が何者かに襲撃され王の一族が惨殺されたことは国内外に広まっていた。
その混乱を治めたのは宰相を務めていた弟だった。
事件の騒乱が収まってしばらくたった頃宰相の館
夜が明けきらぬうち、静かに黒い影がそこにいた。
部屋には蝋燭の灯りが揺れていた。
宰相は椅子に腰掛け、机の上に置かれたグラスに赤い酒を注ぐ。
「来たか。……仕事は済んだようだな」
黒い布をまとったものが、無言で室内に踏み込む。
その目は冷えきっていた。
「ええ、ええ。あなたの言う通りに。あの“王”も、家族も、宮廷も──“すべて処分”したわ」
そのものは一拍置いて、ふっと微笑む。だが、それは獣が牙を見せる笑みに近かった。
「さて……あなたの番ね。宰相殿」
宰相が薄く笑う。
「私を殺しに来たのか?」
黒い影は一歩前に出る。
指先で短剣をくるりと回し、その刃先を宰相の喉元へ向ける。
「簡単に殺せるのよ? 今この場で。
私たちに魔法も短剣も返したんでしょう? それがどういう意味か、わかってる?」
宰相は微動だにしない。
グラスを静かに持ち上げ、赤い酒を口に含む。
「ああ。わかっている。だが君は殺さない。
なぜなら──“まだ片付いていない者”が残っているからだろう?」
ノクティアの目が僅かに揺れる。
次の瞬間、彼女は刃を引いた。
「誰…」
「……ルクシア」
宰相はグラスを揺らしていた。
「生き残った唯一の王族。あの夜、逃げ延びたらしい。私も知らなかった」
ノクティアは宰相に詰め寄った。
「今どこに?」
「辺境伯の屋敷にかくまわれている。
生かしておく理由は、政治的にいくらでも作れる。君たちが“あえて手を出していない”うちはね」
黒い影は肩をすくめるように息を吐く。
「私達が弄ばれてる間……あの娘は、何も知らずに歌っていたのよ。平和とか、希望とか……笑わせる」
しばしの沈黙。
だがその中に、憎しみとは別種の“戸惑い”があった。
「なら、君たちに協力しよう。
彼女が真実を知るその日まで、君たちは“敵”であればいい。
私にとっても、彼女にとっても──それが一番都合がいい」
黒い影はしばらく黙っていたが、最後に短剣を鞘に収めた。
「いいわ。まだ、殺すのは先にしておいてあげる。
“復讐”ってやつは、ちゃんと味わってこそ意味がある。いずれ自分が何者か、どんなに醜いか知って悲しむルクシアも見たい…」
その言葉を最後に、黒い影は部屋を出ていく。
宰相はグラスを掲げ、誰にともなく囁いた。
「君の復讐が、彼女を真実に目覚めさせるなら
……私はどちらでも構わんよ」




