焔の夜、静けさの歌
野営の夜は寒かった。
風が吹き抜けるたび、かき集めた布の間から冷たさが入り込んでくる。
焚き火を囲んだ5人は、それぞれ黙っていた。
戦いは思うようにいかず、言葉を交わす気力もない。
薪が弾け、静寂に小さな破裂音が混じる。
ふと、ルクシアが立ち上がる。
「……ちょっと、歌っていい?」
唐突なその言葉に皆が顔を上げた。
誰も答えなかった。けれど、誰も拒まなかった。
ルクシアは空を仰ぎ、小さく息を吸い込み、口を開いた。
──それは、村の広場で最初に歌った、あの素朴な旋律だった。
酒場の片隅で酔客が口ずさみ、子供たちが跳ねて笑った、あの歌。
フェルヴィアが笑いながら小さな打楽器を手にする。
ミリアも控えめにリズムを刻み始める。
レリアが優しい音色で弦を奏でる。
セレナは黙って座ったままだった。
だが、いつの間にか手が動き、膝に置いた笛に指を添えていた。
気づけば音は5つに重なり、夜気をやわらかく揺らしながら広がっていく。
その歌には、不思議な温かさがあった。
何度敗れても、何度逃げても、それでもまたこうして顔を合わせて、音を重ねることができる──
その事実だけが、何よりも「生きている」ことの証に思えた。
セレナは、ルクシアの横顔を見た。
焔の照り返しにきらめく瞳。楽しそうに歌う、その無防備な表情。
──どうして、この子はこんな風に歌えるんだろう。
胸の奥に、かつての風景が蘇る。
父も母も、兄も姉も、笑っていたあの日。
だがその笑顔は、国王の命令ひとつで奪われた。
(この子の父親に……)
握った笛の中指に、力がこもる。
だがそのとき、ルクシアがこちらを見た。
真っ直ぐに──何も知らない瞳で。
セレナは、息をのんだ。
(……でも、この子は何も知らなかった……それになにかわけのわからない力……それも不自然な力まで……あの子も父親の犠牲になってるんじゃ…)
それがただの言い訳なのか、それとも真実なのかは分からなかった。
けれど音が、自分の中の冷たい塊に少しだけひびを入れたように思えた。
演奏が終わると、誰も何も言わなかった。
けれど、そこには確かに、いつもと違う「空気」があった。
セレナはそっと笛を置き、火の揺らぎを見つめた。
火は消えゆくもの。でも、それでもあたたかい。
(……ほんの少しだけなら、信じてみてもいいのかもしれない)
そう思ったことを、誰にも言わずに。




