《揺れる真実》セレナの違う力に戸惑うルクシア
旅の途上、幾度目かの野営の夜。
焚き火の炎を前に、ルクシアはセレナに問いかけていた。
「……どうして、あなたの妖精は私たちのものと違うの?」
その声には苛立ちよりも純粋な疑念が滲んでいた。短剣で胸の紋を突き、無理やり妖精を呼び出す自分たちに対して、セレナは短い詠唱だけで自在に妖精を顕現させる。
同じ「妖精使い」でありながら、あまりにもその在り方は異なっていた。
セレナは火の揺らぎを見つめたまま、短く答えた。
「……私は一族の血を受け継いでいる。私達は古から受け継いできた…ただそれだけ…あなたたちのとは…」
その説明に、ルクシアは深く黙り込む。
私はなぜ、こんな妖精使いなのか…
「一族って何?どういうこと…」
この子は知らないのだ…なにも…
私の一族の運命を…
セレナの瞳には、どこか哀れみの色さえ浮かんでいた。
話すべきなのか…
この子たちは、本来の使い手ではない。無理やり作られた兵器にすぎない。それは、一族の誰もが知っている。
前の国王、ルクシアの父親は、一族の妖精使いの能力を兵器に変える研究をしていた。
何代にも渡り、一族の妖精使いは代々の王に力を貸してきた。
それが、ルクシアの父親は…
自分の野心のために使った。
他国を征服する手段に。
次々と一族の妖精使いは捕らえられ、実験台にされた。
セレナの周りの人も…
母も姉も帰ってこなかった…
私は、みんなに匿われて育った。
思い出すと吐き気がする。
みんな消えてしまえばいい…
セレナはそう思っていたが、口には出さなかった。
「私は聞いたことがあります…私達の力は、元々セレナのような一族の力だと…」
ルクシアはミリアが何かを知ってると思い、問い詰めたが、ミリアもそれ以上は知らなかった。
三人の間に居心地の悪い沈黙がおとずれた。
その夜はその沈黙のまま時が過ぎていった。
その翌日。森を抜ける道。
三人が足元が悪い中を歩いていた。
どこからか人の声がした。
「しっ!静かに!」
セレナだった。
「動かないで!」
声がだんだん近づいてくる。
何人かいる様子だ。
三人は木の幹の影に隠れた。
突如、妖精が現れた。アニマエウンヴラエの妖精だった。
まずい!
セレナは自分の妖精を呼び出した。
それは現れた、アニマエウンヴラエの妖精にそっくりだった。
2つの妖精は森の中で睨み合った。
声が大きくなった。
声の正体は兵士達とアニマエウンヴラエの一人、フリナだった。
「いいところで会ったな!ノクティアのやり方はぬるい。私がここで終わらせる!」
その刹那、空気が裂けるように2つの妖精の力が放たれた。
黒い妖精と白い妖精は互いに剣のような腕を使い相手を切り裂こうとする。
よく見ると、二つの妖精は形状がよく似ていた。
その剣のような細長く伸びた腕のようなもの。
その他の部分も。
ただ、黒い妖精の方は、その黒さが異様に鈍く輝いていた。
表面は火傷のような状態に似ていた。
一方の白い妖精は対照的に表面は磨いたように輝いていた。
その表面が焼け爛れたといってもいいのが黒い妖精だった。
二つの妖精は互いに腕と腕をぶつける。そのたびに鈍い金属音をたてる。
太い鉄の棒を思い切りぶつけると鈍く金属音がする。振動も発生する。その振動が辺りの空気を振動させる。
それは、人の声に近く、叫び、のような、それとも違う、金属と金属のぶつかり合う鈍い音と人の声が重なったような、まともに聞けばとても不快な音だった。
辺りにそれが響いた。森の木々に、葉に反射する。
思わず耳を塞ぎたくなる。
三人はセレナの妖精を盾にして逃げ出した。
仕方ないことだった。
剣の使い手とはいえ、多勢に無勢、力の差は歴然だった。頼れるのは妖精の力だけだった。
そして、ルクシアは気づいてしまった。
「……セレナの妖精……あの女と同じ……?」
詠唱に応じて姿を現す妖精の在り方。それはアニマエウンヴラエが操るものと酷似していた。
同族の力?。
それは偶然ではない。
「どうして……? セレナ、あなたと彼女たちは……同じなの?……」
なんとか逃げ切ったルクシアの震える声に、セレナ自身も一瞬目を見開いた。
彼女の胸の奥に、今まで否定してきた疑いが突き刺さる。
「まさか同じ一族なの…」
焚き火の夜に語った彼女の血筋。
それが仇として名を刻むアニマエウンヴラエと繋がっているのではないか――。
ルクシアの心に疑問が渦巻いた。
仇と呼んできた存在は、もしかするとセレナの同族。
ならば、彼女達は同族同士なぜ戦っているのか。
セレナはなぜ自分と共にいるのか。
その疑念だけがルクシアの心を静かに侵食していった。




