「違い」
火花のような光が、セレナの手元から舞い上がった。
彼女は短く歌っただけだった。
短剣も、何も使わない。
次の瞬間、透明な羽音が空気を裂き、小さな音の妖精が彼女の肩にふわりと現れる。
白銀の風のような存在が、彼女の周囲に柔らかく舞い降りた。
「……セレナ、今の……」
ルクシアがぽつりと口を開く。
すぐ隣で見ていたミリアも、信じられないという目をしていた。
「最初から、私はこういうやり方なの」
セレナは淡々と返す。
肩の妖精が微かに鳴いた。
「歌だけで、呼び出せるなんて……」
「うちの一族は、そういうものだから。道具なんて要らないのよ」
言いながら、セレナは少しだけ目を細めた。
ルクシアとミリアが顔を見合わせる。
ルクシアの手には、いつも妖精を使うために必要な銀の短剣が握られていた。
それを胸元に当てるたび、鋭い痛みが走り、妖精の力が体の奥から暴れるように浮かび上がる。
それは毎回、身を裂くような感覚だった。
「……あたしたちは、なんで……」
ミリアが小さく呟いた。
「なんで短剣がいるんだろう。あれ、使うと苦しくなる。体の中が押し割られるみたいで」
ルクシアも黙ってうなずく。
セレナはその様子を見て、一瞬口を閉ざした。
言うべきか、言わないべきか。
だが結局、答えの代わりに、少しだけ視線を伏せたまま、言葉を落とした。
「……そういう力の持ち方、じゃないんだと思う。あなたたちは」
ルクシアが少し眉をひそめた。
セレナの声には、どこか断絶のようなものがあった。
「どういう、意味?」
「……うまく説明はできない。でも、あなたたちの妖精は……身体に“仕込まれている”ように見える」
「“仕込まれてる”?」
セレナは口をつぐんだが、目はどこか冷ややかだった。
彼女のなかでは、それは直感ではなく確信に近かった。
“やっぱりそう。あの王族は、うちの一族の術を盗み、ねじ曲げた”
“本来の妖精使いの術じゃない。人工的に、無理やり宿した――それがあの子たちの力”
「うちの一族の力は、代々受け継がれてきたもの。妖精と共鳴するために、体に流れる音を“通して”呼び出すの。痛みなんて、感じない。私たちは……妖精と契約するんじゃない、ずっと一緒にいるの」
「……じゃあ、私たちは違うってこと?」
ルクシアの問いに、セレナは無言だった。
だがその沈黙が、なによりも明確な“答え”だった。
セレナの胸には、複雑な感情が渦巻いていた。
彼女はルクシアたちと心を通わせ始めていた。
だが、妖精使いとしての力の「本質」に関してだけは、譲れないものがあった。
“あたしの力は、正統なもの。彼女たちの力は、歪められた術。模造品みたいなもの”
そう思ってしまう自分がいた。
それはプライド。
それ以上に、使命感。
“だからこそ、あたしは彼女たちを見届けなきゃいけない。間違った使い方を、終わらせるためにも”
セレナは言わなかった。
それを口にすれば、もう彼女たちと同じ場所には立てなくなる気がしたから。
しかし――言葉の端々に、態度の揺らぎに、その思いは少しずつにじみ出ていた。
ルクシアは、ふと、セレナの背に浮かぶ妖精の光を見つめた。
何かを悟ったような表情で。
けれどその瞳に宿った感情を、セレナはまだ知らない。




