街角の旋律と、揺らぐ心
◆第二幕:仮面の演奏とセレナの沈黙
――小さな村の石畳。仮面の5人が通りに立つ。
「仮面で顔を隠して演奏すれば、素性はばれないわよ」
ルクシアが提案した時、セレナは初めて声を荒らげた。
「馬鹿か、お前。目立つことは敵を呼ぶだけだ」
「でも、食べるためよ。私たちが死んだら意味がないでしょ……」
「目立たずに生き延びる、それだけが正解だと思ってるの?」
睨み合ったまま数秒。フェルヴィアが「まぁまぁ……」と割って入る。
ミリアがそっとルクシアの手を握る。「一緒に、頑張りましょう」と。
結局、セレナ以外の多数決で演奏が決定された。
通りに人が集まり始めていた。
初夏の夕暮れ、涼やかな風に混じって、ルクシアたちの音楽が広がってゆく。
フェルヴィアの明るい旋律がはじけ、ミリアが柔らかくそれを包み、リレアの細やかな指が空気を震わせる。
ルクシアの声が静かに重なったとき、セレナは少しだけ立ち位置を変えた。
自分の音が、仲間の音に溶けていく感覚――
それが、ふいに胸を締めつける。
「……なんで、こんなふうになるんだろうな……」
音楽の終わりを告げる拍手が遠くで響く。
セレナは人々に手を振りながらも、心の奥では別の音が鳴っていた。
“ルクシアは敵だ。あの王族の娘なんだ。私の一族を滅ぼした者たちの血を引いている。”
それなのに――
彼女は、笑っていた。優しい目をして、疲れた子どもにパンを渡していた。
寒い夜には自分よりもミリアの肩に上着をかけていた。
自分の体調が悪いと気づけば、何も言わずに背中をさすってくれた。
その手の温かさを、セレナは振り払えなかった。
仲間意識なんて、くだらない。
そう思いたかった。
でも、音楽は嘘をつけない。
誰かと一緒に音を重ねるたび、自分のなかの「敵」や「復讐」という言葉が薄れていく。
“あの音のなかにあるのは、憎しみじゃない。”
“あの歌を歌っている彼女に、あたしは――”
「……ふざけてる。あたし、なにやってんだ……」
セレナは演奏を終えた一行から少し離れ、ひとり石畳の影に腰を下ろした。
胸の奥が熱い。
あの音楽が胸に残って、心を締めつけてくる。
“殺すって決めたんだ。絶対に、あの王家の血は――”
「でも……」
小さく口に出た声に、自分で驚く。
でも、何だ?
でも――あたしは、ルクシアを嫌いになれない。
それは、仲間としての絆か。
それとも、もっと別の……?
「バカみたい……バカみたいだあたし……」
そう呟いて、拳を固める。
だがその手は震えていた。
涙なんて出てこない。
けれど、心のどこかが――ゆっくりとほどけていた。
遠くで、またルクシアの歌声が聴こえてきた。
優しく、まっすぐな歌声。
セレナは顔をあげた。
もう一度、自分の足でその輪の中に戻るかどうか――
その選択の重さに、自分でも気づかぬうちに、手を胸に置いていた。




