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森の中のセレナ

焚き火の音だけが、夜の森に小さく響いていた。

 揺れる炎に照らされて、少女の影が地面に淡く滲む。

 マントに身を包み、フードを深く被ったその姿は、森の闇と一体となり、まるでそこにいることさえ疑わしい。


 枯葉を踏みしめる音。

 それは一つ、また一つと近づき、やがて焚き火の光に輪郭を晒す。

 現れたのは男だった。年の頃は三十を超えたか、猟師のような革の上着に弓を背負い、顔はひどく痩せこけていた。


「──王女が、仲間を探してるそうだ」

 男は火を見つめながら、低く語りかける。

「復讐のためにな……」


 少女は、かすかに顔を男の方へ向けた。

 フードの陰に沈んだその表情はよく見えない。だが、焚き火の揺らめきに一瞬だけ浮かんだ口元は──わずかに、笑っているように見えた。


 そして、静かに呟く。


「……私にも、運が向いてきたかな…これで…」


 その声は低く、どこか諦めにも似た音色を含みながら、焚き火の火種に溶けていった。


「行くのか…」


男はつぶやいた。


「関わるのはよせ…お前もわかってるだろ…ろくなことがない…一族のこと…」


 次の瞬間、少女は横に置かれた剣を掴んだ。

 鞘から抜かれた刃が、焚き火の赤を弾き返す。

 そして何のためらいもなく──目の前の虚空を、思いきり突き上げた。


「あいつらは利用することしか考えてない…俺たちはずっと利用されてきた…いいと思ってやってやっても結局あいつらはろくなことにしか使わない…」


 「そこ」に誰かがいたわけではない。

 しかし、彼女の目には確かに映っていた。

 その刃先の向こうに、炎に包まれ、玉座に背を向ける一人の王女の姿を──。


「結局一族もバラバラだ…あいつらに力を貸すものまで…」


男の言葉を聞いているのか聞いていないのか…


 剣の切っ先は炎を切り宙に止まり、わずかに火の粉を散らす。


 男はそれ以上何も言わなかった。ただその光景を黙って見つめていた。


 けれどセレナのその瞳に宿る光は、確かに何かを背負っていた。

セレナは唱えた

一度だけ

先祖から受け継いだ言葉を



同時に背中が盛り上がり光を放つ

なにか異型のものが躍り出てくる

セレナの妖精だった。

妖精は浮かび上がりセレナを見つめていた。

セレナも妖精を見つめていた。

その間の空気にはなにかが伝わっているかのようだった。

 ──それは、復讐と、哀しみと、断ち切れぬ一族の血の記憶。

なのかもしれない。


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