《森の影、灯る篝火》
夜の森を歩く二人の足音が、落ち葉を踏みしめて響く。
虫の声と風のざわめきの中に――ふいに、異質な音が混じった。
「……ルクシア様。聞こえますか?」
ミリアが小声で耳を澄ませる。
「……焚き火の音……いや、それだけじゃない。人の声……剣の鞘がぶつかる音だ」
ルクシアの表情が固まる。
やがて木々の隙間から、いくつもの灯りが見えた。
篝火。
その周囲には、数十人規模の兵士たちが野営していた。
鉄の鎧が焔を反射し、槍が地面に立てかけられている。
「……兵士……王国軍……?」
ミリアが囁く。
判別できるものがないか、わずかな明かりの中で探すがわからない。なにか紋章でも見つけられればと思ったがわからなかった。
ルクシアは即座に木陰に身を隠し、ミリアの腕を強く引いた。
「違うと断定できるか? 国王の兵かもしれない。見つかったら終わりだ」
「でも……」
「いいからついて来い」
ルクシアの声は冷たく鋭く、拒絶を許さなかった。
二人は息を潜め、森の影を縫うようにして遠回りする。
風が篝火の煙を運び、焦げた肉の匂いが漂ってくる。
兵士たちは笑い声をあげ、酒を回しながら、夜を過ごしていた。
その光景は、戦場へ赴く前のひとときの緩んだ空気――。
しかし、ルクシアとミリアには知る由もない。
彼らが国王の圧政に反旗を翻した反乱軍であり、本来ならば手を取り合える存在であることを。
「……殿下。避けて通るのですね」
「当然だ。私は……誰も信じない。必要なのは剣と妖精、そしてお前だけだ」
ミリアはその言葉に胸が締め付けられる。
だが何も言えず、ただ彼女の背を追った。
遠ざかる篝火の灯りが、二人の背を淡く照らしていた。
すれ違った運命の光を知らぬまま――。




