《別れの岐路》
戦いのあと、館の庭には焦げた匂いと血の臭気が漂っていた。
生き残った兵士たちは重苦しい沈黙のなかで武器を整え、荷をまとめていた。次なる反乱軍の拠点へ向かうためだ。
ルクシアとミリアもまた、旅立ちの準備を整えていた。
妖精の指し示す方へ――新たな仲間を探すために。
「姫様……」
ひとりの兵士が口を開いた。呼び名にルクシアはわずかに眉をひそめる。
「どうか我らと共に来ていただきたい。我らには旗が必要です。姫様こそが、その旗印に……」
ルクシアは静かに、けれど鋭く首を横に振った。
「私はもう王女ではありません。人を導く器も持っていない。ただ……復讐者であるだけです」
兵士たちはざわめいた。困惑と戸惑いが入り混じる空気。
「そんな……姫様」
「王女殿下がそうおっしゃるはずが……」
しかしルクシアは揺るがなかった。
「私が共に行けば、必ず皆を死なせる。だから、あなたたちはあなたたちの戦いをしてください」
言葉は理屈めいていて、矛盾すら孕んでいた。兵士たちの誰もがそれを感じ取っていた。だが、伯爵を失ったばかりの彼女の強い眼差しに、誰も反論できなかった。
やがて兵士の幾人かが、ためらいながらも申し出た。
「ならば、せめて我らの数人だけでも共に行かせていただきたい」
だが、それもルクシアは首を振った。
「必要ありません。これは私の道です」
意固地さが見え隠れする答え。屁理屈だと皆が思ったが、誰も口にはできなかった。兵士たちは重い沈黙の末、断念するしかなかった。
彼らはせめてと、進路の先の村や街の情報を伝え残し、別れを告げる。
一方で領民の幾人かはミリアの手を取った。
「どうか残ってください、ミリア様。あなたは伯爵様の血を継ぐお方。私たちの支えに……」
ミリアはその手を握り返し、真っ直ぐに言った。
「私は……ルクシア様と共に行きます」
涙をこらえる領民たちを背に、二人は歩み出す。
燃え落ちた館を後ろに、風に散る灰を背に受けながら――。
そして、妖精の示す道へ。
二人の新たな旅路が、静かに始まった。




