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逃亡の旅へ
辺境伯の館が黒煙に包まれ、瓦礫と化してから数日。
ルクシアは、重く冷たい空気をまといながら、静かにミリアとともにその地を後にした。
生き残った家臣たちは、最後まで二人の面倒見て旅支度を整えてくれた。
領民たちも、沈んだ面持ちで小袋を差し出した。
袋の中には、ありったけの硬貨と、温かな気持ちが詰まっていた。
「姫様……どうか、どうか生き延びてください」
涙で震える声に、ルクシアは何も返せなかった。ただ、深く頭を下げた。
ここにはいられない…
今度は領民にも被害が出るかもしれない…
彼らはなにも言わないが、そんなことは一目瞭然だった…
ルクシアにもそれはわかった…
もう“姫様”ではないことを、誰よりも自分が知っていた。
ルクシアは夜明け前に出発した。
向うのはミリアの故郷だった。
いくつもの朝と夜を過ごさなければならなかった。




