顔色をうかがう少女
訓練場に差し込む光は、午前の冷たさをまだ残していた。
ルクシアの隣に立つミリアは、まっすぐ前を見ているようで、その目はどこか泳いでいた。
「ミリア、構えを見せてみろ」
辺境伯の声は低く、重い。それだけでミリアの肩が小さく跳ねた。
「……はい」
彼女は返事をして剣を抜く。姿勢は正確だが、どこか硬い。
辺境伯が一歩踏み出しただけで、ミリアの喉が微かに鳴るのが、ルクシアには聞こえた。
「もっと腰を落とせ。肘は浮くな。間合いが甘い」
言葉に鋭さはなかったが、ミリアはぴくりと震えた。
「す、すみません……」
その声は小さく、まるで叱責を恐れて口の奥に閉じ込めていた。
稽古の後、ルクシアがそっと問いかけた。
「ミリア、フェルネウス伯爵のこと、怖い?」
ミリアは視線を伏せ、ほんの少しだけうなずいた。
そして少しずつ話し始めた。
「おかしいですよね……辺境伯様が悪いわけじゃないのに…どうしても祖父の時と同じに感じて…怒られるんじゃないかとか…顔色うかがってしまうんです…」
「ミリアはフェルネウス伯爵のことはきらい?」
ルクシアは静かに、ミリアの手を握った。
ミリアは咄嗟に手を引こうとしたが、それをルクシアは離さなかった。
諦めたようにミリアは手の力を抜いた。
「嫌いなんて…そんなこと…伯爵様は私を怒ったりしません…でも…」
「でも…どうしても自然に…」
「私はセルヴァーナ伯爵にお会いしたことはないからたしかなことは言えない…でもきっとミリアのことは大切に思ってると思う…どうでもいいと思ってる人に熱心にはならない…」
「………そうなんです…」
ルクシアにはそれ以上の言葉が出てこなかった。ミリアにどう言っていいかわからなかった。それが私の限界だ…ルクシアは自分が情けなく思えた。
「ちゃんと伯爵に元気な姿見せましょうね!」
こんなズレたなんの意味もない言葉で終わらせてしまう…真の指導者なら…
ルクシアはミリアの肩に手を置いた。




