剣の鍛錬
湿った朝の空気に、剣の打ち合う音が小さく響いていた。
何度か刃を交えた後、辺境伯フェルネウスが剣を下ろし、額の汗を袖で拭う。
「少し休もう」
二人は木陰に腰を下ろした。遠くで使用人が水差しを運んでくる。
フェルネウスは水を一口飲んだあと、ふと遠くを見つめた。
「……ミリア、あの日のことを話しておこう」
彼の声は、鍛錬のときより低く、重く響いた。
「焼け落ちた離宮に着いた時、あたりはまだ煙の匂いが残っていた。
兵を分けて捜索させたが……人の姿はほとんどなかった」
フォルネウスの目に、あの日の光景が蘇っているのがわかる。
「森の中を進み、川沿いの岩穴で――殿下を見つけた…」
ミリアは息を呑む。
フェルネウスの声がさらに静かになる。
「殿下は、焼け焦げた短剣だけを握って、ただ呆然と座っていた。
我らの姿を見るや、恐怖で逃げ出そうとしたが、衰弱がひどくてな……何日も水しか口にしていなかったらしい…」
ミリアは思わずその姿を想像してしまう。
幼い王族が、全てを失って、冷たい岩穴で――。
「館に連れ帰ったが、しばらく口を開かなかった。
火を見ると怯え、逃げようとした……」
フェルネウスは水差しを置き、ミリアの方を真っすぐに見る。
「だから頼みたい。
あいつは……表では毅然として見えるが、あの時の傷はまだ癒えていない。
お前が側にいてやれ。剣だけでなく、心の支えにもなってほしい…」
ミリアは真剣な表情で頷いた。
フェルネウスの言葉が重く胸に落ちた。
あの時から、ルクシアは生き延びるために立ち上がったのだ――だが、その背にはまだ、燃え尽きた離宮の炎が影を落としている。




