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稼働開始

 金曜日の午前十一時、それは先方でのリリース後、二日と十二時間経ったことを示す。万が一の問題発生に備えて技術員が待機する時間の終わりだ。それは事前に顧客と約束していたことである。

「なにも起きなかったな。なにより、なにより。」

 コオオルの声が静かにオフィスに響く。私はまだ黙っていた。それから二十分ほどして、マヤンから連絡が入る。

「こっちはリリース確認は完了だ。お客さんの方は態勢解除になったよ。ご苦労さん、そちらも解散して下さい。」

「連絡ありがとうございます。ではこちらも態勢解除します。」

「いろいろありがとう助かったよ。」

「いえ、マヤンさんにはいろいろ苦労させてしまってすいませんでした。本当にありがとうございます。」

「いや、IDが三つ来ると分かった時はどうなるかと思ったが、その後に処理を変えたのが良かったね。」

「ええ、結果的にはそうなります。」

「ボクも安心したよ。」

 近くに顧客がいるのだろうか。マヤンの会話は、たぶん私以外の誰かに向けてのものだ。無事リリースできたにしても当初より納期は遅れた。その正式な理由を、今もう一度上書きしている。マヤンのそういう所を私は嫌いではなかった。

「マヤンさん、本当にありがとうございました。」

「いや、ミヤマさんに担当してもらって良かったよ。本当にありがとう。」

 通り一遍かもしれない謝辞の交換、私にはとても心地良いものだ。マヤンとの会話を終えると私はまわりのメンバー全員に聞こえるように、声を大きくして言う。

「マヤンさんからの連絡です。リリース完了とのことでした。」

 拍手と遠慮がちの歓声、それからしばらく、私はプロジェクトのメンバーと握手をして、インフラチームともモニタごしに謝辞の言葉を交わしあった。


 それから数十分後、昼休憩に入ったのを見計らって、私は自分の席の片付けを始めた。

「なんだい、もう引っ越し準備かい?」

「ええ、まあ。ウィルダイスさんともリリース完了までと確認してますから。」

「それよりお祝いに、ナナミさんとみんなでランチでもどうだい?」

「いえ、一人静かに顧みておきますよ。」

「そうかい。まあ、あんたらしいな。俺とナナミさんはもうしばらくプロジェクトに残る予定だからな。しばらくはお別れだ。」

「ええ、追加納品も発生してますからね。」

 試験結果が良好なのを聞きつけて、バタバタと同様のデータシステム納品がいくつか決まっていた。完成版が納品される頃にマヤンが持ってきた案件だ。やはり彼は抜け目ない。汎用性を持たせ新たな納品に備える仕事が、まだこのプロジェクトには残っていた。

「まあ、それも一、二週間だな。ヘルプで入った三人が急にいなくなるのを嫌がられただけさ。きっと。」

「まあ、そんなものかもしれませんね。でも、コオオルさんとナナミさんも大変だったでしょう。お二人のおかげで私もずいぶん我儘を言えた。本当にありがとうございました。」

「最後くらいは褒めてくれんだな、ありがとよ。」

 今までだって何度も褒めたと思いますよ、そう言おうとして思い直す。そして違う言葉を口にした。

「このプロジェクトはあとはユキさん達に任せて大丈夫だと思いますよ。でも、安心しすぎないで下さいね。」

「ええ、分かっています。」

 そう答えたのは近くにいたナナミだった。

「とりあえず私は安心してますよ。」

 私がそう言うと、ナナミは静かに微笑んだ。

「ウィルダイスさんにも連絡しておきました。ウィルダイスさんからは、この三人なら当然だって。」

「はは、それだけか。まあ、いつものことだ。」

「そうですね。」 

 コオオルと私が言うと、ナナミが別の解釈を口にする。

「たぶんミヤマさんが一番信頼されているんですよ。うらやましい。」

「いや、全くうらやましいことではありません。」

 プロジェクトメンバーとの連帯感と別に、私たち三人には別の仲間意識が出来ていたんだな、その時になって私はようやく気づいた。

「なんにしてもデータリンクは無事にプロジェクト終了できるだろう。」

「ええ、そうでしょうね。あとはよろしくお願いします。」

 私がそう言うと、ナナミとコオオルも感謝を口にする。

「本当に良かったです。ありがとうございます。」

「いや、こちらこそ。」

「また、何かのプロジェクトでご一緒しましょう。」

「ああ、出来れば難しくないプロジェクトでお願いしたいわ。」

「全くだ。」

 そう言って、ナナミとコオオルと最後にもう一度笑い合った。

「お疲れ様でした。」

 そして静かに私はそのフロアから出ていく。部屋を出る時に、ユキとシオヤがモニタごしに何か話し込んでいるのが目に入った。ユキがモニタに向かって頭を下げている。そして画面上のシオヤは笑顔だ。この二人の関係は結局、私には分からないままだった。

 午後から私はいつもの生活に戻る予定だ。これも何か月かに一度のメリハリでしかないのかもしれない。それに、ウィルダイスからの呼び出しが明日にでもありそうな気がした。


                             (了)

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