短編コント「私のことすき?って聞いても普通に好きとしか言わない彼氏」
ソファで寝転んでいた彼女が勇気を出して、横でスマホをいじっていた彼氏に声をかけた。
「ねぇ、私のこと、好き?」
彼氏は少し間を置いて、困ったように答えた。
「……普通に、好きだよ」
「普通に……?」
彼女は勢いよく起き上がった。
「“普通に好き”って何!?大好きじゃないけど強いて言えば好きってわけ!?普通に美味しいみたいな!?最低!そんなの愛じゃない!!」
「いやいや、ほんとに好きなんだって!」
「どのへんが? どこが好き?」
彼女は畳みかけるように詰め寄っていく。
「顔?体? 性格? 声? どれ?」
「いや、マジで!……マジで全部普通に好き」
「ふざけんな!別れる!!」
彼女はクッションを持ち上げ、彼氏をボスンと叩いた。
「わかったわかった!」
彼氏は両手を挙げた。
「なんで“普通に好き”としか言わないのか、ちゃんと説明する!」
彼女はクッションを抱きかかえて座り直した。
「説明できる理由なんてあるわけ?」
「いや、なんて言うかさ、人のいいところって、言葉にすると失われてしまうと思うんだ」
「どういうこと?」
「たとえば、子役に“無邪気な笑顔がいいね”って褒めたら、その子は次から褒められる為に、無邪気を演じてしまうだろう。その人本来の無意識の良さが、他人の言語化で加工されて、永遠に失われてしまうんだ。だから俺は本当に大事な人には干渉しないように、“普通に好き”って曖昧なままにしている」
彼女は少し驚いた顔をした。
「……そんなこと、考えてたんだ」
「うん。だから愛がないわけじゃない。俺なりに君を大事にしてるつもり。そのままの、ありのままの君が好きなんだ」
彼女はしばらく黙り、上目遣いで彼氏を見やる。
「……ごめん、そんなに想ってくれていたのに、私ひどい事言っちゃって……」
「そうだよな。ちょっとした事ですぐ激高するのは、君の悪い癖だよ」
「う、うん……」
「物事には色んな側面があるんだから、“自分に不利益=相手が悪い”って反射で決めつけるのは改めた方がいいよ。もっとグレーを楽しもうぜ?」
「う、うん…………」
「わかってくれたならよかった。この後どうする?メシ行く?」
「あのさぁ!!」
「えっ、まだ?何?」
「あんた、私の悪いところは普通にズケズケ言うよね!?ありのままの私が好きじゃないじゃん!!」
「そ、それは、悪いところは言葉にして失くすべきだと思うから……」
「私ご褒美ないんですけど!!いいところ褒められないのに、悪いところばっかり言われて、苦行なんですけど!!」
「そ、そっか。それは盲点だった……!」
「謝って!もっと私に優しくして!」
彼女はクッションで彼氏を二叩き、三度目を振りかぶった。
「ご、ごめん!反省する!これからはいいところも言う!」
彼女はクッションを放り出し、彼氏にタックルするかのように抱きついて押し倒した。
「私はさ、あなたのセンスや言葉が好きなの。もうどうしようもなく影響されてるの」
「そ、そうだったのか……」
「だからもっと褒めてよ。あなたの言葉で私を加工してよ。永遠に残してみせてよ」
「うん、努力するよ……」
「じゃあ、ほら!言ってよ」
「今?」
「今!」
「えっとー、その……、今みたいな、君の自分の本心を素直に伝える姿勢は、普通に尊敬する。あっ!普通って言っても普通じゃなくて!!心から思っているわけで!!」
「ふふっ、もういいよ」
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