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星彩祭の後、私達は魔術書の解読を再開した。
サラナ皇子の知識と私のゲームの記憶を組み合わせ、ついに邪神の封印方法を突き止めた。学園の地下に眠る古代の祭壇――そこが最後の戦いの舞台だ。……って、なんで学園の地下にそんなもんあるのよ。
学園長やさまざまな教職員達と会話を重ね、信頼を勝ち取って行く。そうして、最終的に地下に行くための鍵を手に入れることができた。
これは『運命の花園』にはなかった要素だ。だって、『運命の花園』ではイベントをこなして授業を受けただけで最終的に鍵は手に入ったのだから。そもそも、『運命の花園』と違いまだ学園生活は序盤だ。つまり、有体に言えばかなり巻きでいっているのである。
私とサラナ皇子の本音は、簡単に言えば『さっさと問題終わらせて学園生活楽しみたい』だ。私とサラナ皇子は二人の共同研究で言い伝えの事を研究している……と言う体で、神殿に足を運んだり、様々な文献を集めたりした。
『運命の花園』の中では語られなかった色々な設定(?)も見つけられて、けっこう楽しい。
問題は、星の巫女と星の勇者が心を通わせて生み出す固有アイテムだったけれど……。いつのまにか、私とサラナ皇子はそのアイテムを手に入れることができた。サラナ皇子曰く、「きっかけは星彩祭だろう」と言うことだったけど……そんな設定あったっけ?
サラナ皇子の固有アイテムは、黒い百合の装飾が見事な紫色の本だ。それに合わせて、私の固有アイテムは桃色のラナンキュラスの装飾が可愛らしい、薄い緑色の本。
「これで、邪神を封印できるんだよね?」
「ゲーム通りなら、そのはずだ」
二人で固有アイテムの使い方や封印のやり方を確認し合った。『運命の花園』の知識と、この世界での言い伝えや考察などを交えたものを。
そうして、私達は学園の地下に眠る古代の祭壇に行く日を決めた。『祭壇の様子を確認する』と言う名目で。
古い階段を使って学園の地下に降り、閉ざされた扉を開く。そうして奥へと進んだ。
だが、祭壇に辿り着く直前、宰相ウィスタが現れた。どうやら、別の出入り口があるらしい。それと同時に、私達の予想は合っていたのだと確信した。
「サラナ皇子、姫。この先に進むのは危険です。邪神の力は、あなた達を飲み込むかもしれない」
ウィスタの言葉に、サラナ皇子が鋭く反論する。
「宰相、余計なお世話だ。俺達はこのまま世界を終わらせる気はない」
ウィスタの瞳に、複雑な感情が浮かぶ。彼もまた、本来の所属の使命に縛られているのかもしれない。だけど、私達は前に進むしかない。
「私達は知っている。あなたがどこの誰なのかを。もし、このまま通してくれたら、あなた達を私の国で保護しますよ」
「『タンザの一族』。とある女神を信仰する、土地なき集団……だよな。邪神の前身とされる女神だったはずだ」
サラナ皇子の言葉を聞き、宰相ウィスタは初めて動揺を見せた。まさか、気付かれているとは思っていなかったのだろう。
「女神を目覚めさせる儀式をやっていたんだろう。だが、女神を目覚めさせることはできなかった。そうだろう」
サラナ皇子の言葉に、宰相ウィスタはサッと青ざめる。無論、彼は止めたのだろうが、一族の者達が強行したのだろう。
無論、ヒントなんて図書館以外のどこにもなかった。情報の多い図書館さえ、一族の情報が僅かにあった程度だ。私達が『運命の花園』をプレイした転生者だったからこその、知識チートだ。
「大丈夫だ。兄上にはあんたのことは話さない。そのまま、宰相を続けろよ。せっかくできた居場所なんだろ」
「……私が、その言葉で揺らぐと?」
サラナ皇子の言葉に、宰相ウィスタは表情を歪ませる。だが、邪魔をする気はなくなった様子だった。
「姫、その言葉。違えないでくださいね」
そう告げた後、身を引いた。
邪神はすでに目覚めていたようで、祭壇の中心で邪神の闇が渦を巻く。世界そのものが軋むような恐怖の中、サラナ皇子が私の手を強く握った。
「ラナン、絶対生きて帰るぞ。世界救うのもいいけど、俺はお前とまたあんたとバカ話したい。前世の話だって、まだ聞いちゃいないんだ」
その言葉に、涙が滲んだ。
「うん、約束だよ!」
二人の力を合わせ、魔術書の呪文を唱える。ゲームの設定では、ヒロインの愛が鍵となるはずだった。だが私達が放った光は、ゲームの枠を超えたものだった――転生者同士としてテストや祭を通じて築いた、互いを信じ選び取った絆の力。
闇が晴れ、邪神は再び封印された。祭壇の崩れる音が響く中、サラナ皇子が私を抱き寄せた。
「お前、ほんと無茶するな……」
「あなたもね」
戦いの後、疲れ果てた私達は学園の屋上で寄り添った。
「なあ、ラナン。ゲームのエンディングみたいに、俺とお前で、結ばれてみないか?」
落ち着いた時。サラナ皇子が私の手を握って、まっすぐに見つめた。
思わぬ提案だ。
「前、あんたには言ってなかったけど……俺、本当はラナンとサラナのルートが一番好きだったんだ」
「そうなんだ。私と、おんなじ……」
「ラナンもそうだったのか? なら、俺とあんたが一緒になったって、文句はないだろ?」
私は笑って頷いた。
「そうだね。でも、これはゲームのシナリオじゃない。テストも祭も一緒に乗り越えた、私達の物語だよ」
サラナ皇子が照れくさそうに笑い、私達はそっと唇を重ねた。