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◆ 学院編 古代遺跡 -14-

「ど、どうして声をかけてくれなかったんですか……! 邪魔して下さいよ! 外出禁止を破っているんですよ、俺たち!」

 思わず生徒の立場から規律違反を持ち出してしまい、ますます全身が熱を帯びる。

 デュランはくつくつと喉の奥で笑いながら、軽く肩をすくめた。

「まあ、それはそうだが……私は寮監ではないし、本来の水属性の教師でもないからな」

「……意外と緩いんですね」

「オベール警備官から解き放たれている今、羽を伸ばしてもいいだろう。……ボンシャンとヴァロアが居るのが難点だが……、特にヴァロア……」

 この人、普段、よほど色々と我慢しているんだな……と、俺はそんなことを考えずにいられなかった。

 すると、デュランは声を落とし、"シュッとしてはる"人が決して言いそうにないことを口にした。

「もっとも、ガゼボでおっ(ぱじ)めたら、流石に止めようと思っていた」

「おっ……おっ(ぱじ)めたら……って……!」

 頭の中が真っ白になる。言葉を失った俺は、その場で体が石のように固まってしまい、呼吸さえ忘れるほどだった。恥ずかしくて死にそうだ。

 続けて、彼は少しだけ視線を伏せ、申し訳なさそうに口を開く。

「盗み聞きのような形になってしまったのは、本当に済まない」

「いえ、聞かせてしまってこちらこそすみませんでした」

 デュランはすぐにまた淡々とした調子に戻り、

「……私は誰とでも無節操に関係を結ぶような在り方には眉を顰めるが……、けれど、若いうちにきちんと恋愛をすることは、ある程度は許容されるべきだとも思っている」

 と、静かに言葉を継いだ。

 そして、わずかに口元を緩めながら、さらりと彼は締めくくった。

「おっ(ぱじ)めたら止めるけどな――それも、合体寸前で止めてやる」

 俺は思わず吹き出す。

 我慢できず笑い転げる俺に、デュランは真面目な口調で続けた。

「とにかく、恋愛は拗らせるな。節度を守って付き合うように」


 物凄く重みのある言葉だ。

 拗らせ被害者でなければ、これほど胸に響く忠告は出来ないに違いない。


「拗らせると、他人の迷惑になる。長年拗らせると、学院を巻き込んだ騒動に発展する。戦争が勃発する。室内に障壁を張り、備品、調度品も守らなければならない」

 そう言ってから、デュランはジャケットの胸ポケットから掌に収まるほどの小袋を取り出した。

「一粒、いかがかね?」

 差し出された袋の口から覗いたのは、例の丸薬。

「いつものですね」

「ああ。薬というほどのものではなく……胃腸を整えるコンプリマン(補助)アリマンテール(食品)のようなものだ」

「……いただきます」

 俺は一粒つまんで口に放り込む。

 ほのかな甘みと清涼感が広がり、意外なほど美味しかった。

「何ですか、これ。うまいんですけど!」

 思わず口の中で転がして味わっていたら、デュランがちらりとこちらを見て、同じ袋から一粒取り、自分も口に放り込む。そしてわざと音を立ててガリッ、と噛み砕いた。

 慌てて俺も真似してボリッと噛むと、爽やかな香りがさらに強く弾けて鼻に抜けていく。

「……っ、なるほど。こうやって食べるものなのか……」

「うん。しかし、コルベール君も大変だね」

「セレスでいいです」

「じゃあ、セレス……、アルチュール・ド・シルエット君は、良い男だな」

 ――ぶっと咽せ返った。

「ちょっ、な、何でいきなり……!」


 ……でもないか。

 俺が、アルチュールに惹かれている……とリシャールに言ったことを、この人は聞いていたはずだ。

 だから、わざわざこうして口にしてきたのだろう。


 デュランは俺の狼狽など意に介さず、静かな眼差しを落とす。

「真面目で、勤勉で、義務を忘れない。若いのに、自分の欠点に目を向けようとしている。それもまた伸びしろだ。立ち居振る舞いもこの短期間で見事に変わった。君を真似ているのだろう」


 いや……立ち居振る舞いに関しては、俺の場合は、セレスタン本人の身体にしみついて残ってるものが勝手に出てるだけだ。俺がすごいわけじゃない。


「……良い男だよ、あれは」


 それは、そう。認める。異論はない。


「……ですね。本当に、良い男です」

 デュランは何も言わず、代わりに胸ポケットから再び小袋を取り出し、俺に差し出した。

「もう一粒、どうだ」

「ありがとうございます」

 俺は素直に受け取り、丸薬を口に放り込む。ガリッと噛むと、爽やかな香りがまた広がった。


 その音を聞き届けたあとで、デュランはふぅ……と小さく溜息を吐いた。

 どうしたんだろう、と俺は訝しく思う。


「セレス……、シルエット君に君が惹かれていなければ、ルクレール・シャルル・ヴァロアのことを頼むと言いたかったんだが……」

「……え?」

「いや、誤解するな。別に彼と特別な関係になってくれという意味ではない。全くそういうんじゃないんだ。ただ……身近に居て、友人のように支えてやってほしい、と思っただけだ」デュランは、苦笑めいた息を漏らす。「とはいえ、それも十代の君に頼むようなことではないな。ヴァロアは今ここにいる生徒たちより、七歳か八歳は年上なのだから……。だが……あれほど誰にでも器用に振る舞うあの男が、実のところ、本気で一人を見つめたのはこれが初めてなんだ。初めて、誰かに深く興味を示した――君に」


お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥ ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾


デュランさんのターン。

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