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◆ 学院編 古代遺跡 -4-

 すぐそばの木陰に移動しアルチュールと共に外套(がいとう)を脱いで地面に敷き、腰を下ろしたところで、ようやくナタンがやって来てふらふらとその場にへたり込んでしまった。

「大丈夫か? 食べられるか?」

 俺がそう問うと、ナタンは一拍ほどの間をおいて、「食べないと目的地まで持ちませんから」と言いながら、腰に下げた革袋を探り出した。尚、この革袋は見た目こそ小ぶりだが、寮監たちの部屋の扉のポストと同じ仕組み――空間魔法によって内部が拡張されている。携帯食や水袋、薬草、着替え一式まで収められており、旅の道中では重宝する代物だった。

 俺は立ち上がり、自分が座っていた場所を指し示す。

「ここ、使え」

「いえ……とんでもない。セレスさまの外套の上に座るなど、烏滸(おこ)がましすぎます」

 ナタンは首を振って固辞するが、その顔は少し青白い。

「じゃあ――」と俺はナタンから着ていた外套を引っ剥がし、手早く地面に広げた。「三人で座れるようにする。これなら文句ないだろ」

 アルチュールが口角を持ち上げながら頷き、ナタンも結局観念したように四つ這いで進んでそこに座り込んだ。

「はあ……、アルチュールは、タフですね。あの疾走訓練を終えても顔色ひとつ変わらず、笑っていられるとは……まだ体力が有り余っているように見えます」ナタンは半ば感心、半ば呆れたように言葉を継いだ。「それにしても、セレスさまにこんなに至れりつくせりしていただくだなんて……っ、今夜のナタン・トレモイユ著『〜セレスタン・ギレヌ・コルベール様の日々〜日記』に必ず書き記します!」

「その日記、全巻燃やしてしまえ」

「嫌です。私のライフワークですから」

「今度、俺にも読ませてくれ」

 アルチュールが肩を揺らして笑いながら口を挟む。

「いいですよ。ただし……覚悟してくださいね」ナタンはわずかに頬を赤くし、真顔で続ける。「学院に入るまでの章では、毎日のセレスさまの髪の状態を克明に記しています。洗い上がりの艶、乾かすときの指通り、香油の残り香――一行たりとも手を抜いたことはありません」

「……は?」アルチュールの笑みが一瞬で固まった。「ナタン、お前、入学前まで毎日セレスの髪に触れていたのか!?」

「はい。風魔法で乾かしながら、状態を整えて差し上げるのが私の日課でしたから」

「俺にも触らせろ、セレス!」

 言うが早いか、アルチュールの手が俺の髪に伸びてきた。

「ちょっ、アルチュール、やめろっ。もつれる、今、汗かいてる……っ、湿気ってるし!」

 軽く振り払おうとした瞬間、胸の奥に小さなざわめきが沸きあがる――あの日からだ。


 レオがアルチュールの目の前で俺を抱き締めた。その直後、彼は衝動のままに俺を抱き寄せ、自分でも何をしたのか分かっていないような顔をしていた。

 あれから、俺たちは二人きりになる機会を持てず、どうしてそんな行動に出たのか、理由を尋ねることができずにいる。


 いや――二人きりになれていたとして、俺はその話題を持ちだせただろうか……。


 ガーゴイル討伐に勝手に参加した罰で、俺とアルチュール、リシャール、ナタン、レオには追加課題が課せられた。訓練に加え、レポートの提出まで命じられ、毎日が忙しく過ぎていった。他の生徒たちからも討伐の顛末を聞かせろとせがまれ、落ち着く暇はなかった。


 それでも――食堂で四人揃って食事をしているとき、以前のような自然さで笑い合う時間の中に、ひとつだけ違うことがあった。

 アルチュールは、当たり前のように俺に触れてくるようになっていたのだ。

 腕に軽く手を置く、背中に手を添えながら並んで歩く。ほんの些細な仕草ばかりだが、それは確かにあの日から始まった変化だった。


 ――気付いたのか?


 恋愛ごとには無頓着で疎いはずのアルチュール。

 辺境の貴族の次男として、敷地の境界線で、日々、魔物討伐ばかりを繰り返し、中身は子供のまま大きくなったような男が……、そんな彼が、友人としての好意の奥に潜んでいたものを、自覚してしまったのかもしれない。


 故に、さっきの行動か……。


 その可能性を考え、俺は困惑を覚える。

 彼が駆けつける前に、意地をはらずルクレールの手を借りて馬から降りておけばよかったのかもしれない。


お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥ ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾


実は、ネージュはレオ推しですが、現実的には、ナタンが一番セレスを幸せにしてくれる相手だと思っています。言ったら焼き鳥にされそうなので言わない……。

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