◆ 学院編 ディルムッドの騎士 -11-
救いようのないヤリチンだ。股間に脳みそが付いているとしか思えない。
ここまで堂々と開き直られると、呆れるを通り越して感心すらしてしまう。
しかも、上向きにそびえるようなどデカい胸……だと?
……認めざるを得ない。
真の敵だ。あらゆる面で、俺より先を歩んでいる。
「……お前、ほんとに反省とかないのか」
横からどこかくたびれたような声でそう言ったのは、デュランだった。
彼が口を開ける度に、ハーブの香りがほのかに漂う。常に息が爽やかな人だ。
「当時、こっちは寝る暇もなくお前の後始末にどれだけ奔走したと思ってる」
ルクレールは軽く肩を竦め、小首を傾げて軽く笑った。
「まあ、若気の至りってやつですよ。……今でも若気のまんまかもしれないけど」
「……やはり、斬っておくべきだったな……。なんなら、今、ここで出せば、もぎ取ってやるぞ?」
「勘弁してください」ルクレールは笑いながら両手を軽く上げた。「俺だって一応は反省してますから」
その場に妙な沈黙が落ちたが、デュランがふっと顎で扉の方をしゃくった。
「……お前たち、オベール警備官とモローが口喧嘩している今のうちに、寮に戻っておけ」
俺とリシャールが視線を向けると、デュランは今度は窓を指さした。ガラス越しに、一羽のコルネイユが欄干にとまり、鋭い動きで必死に翼を上下左右させている。
キレッキレだ……。サイリウムライトを持たせたい。オタ芸か?
……待て、違う。まるで、手信号のような仕草――いや、これは……、
「手信号そのものじゃないか」
「良く分かったな。あれは、私の伝書使のセリックだ」デュランが淡々と告げる。「「ボンシャン先生が、どこかで捕まえたヴァルドラに乗って、そろそろ到着する」と教えてくれている」
……そうか。
ボンシャン到着の報告を奇石で行うと、声が洩れてその情報がオベールの耳にも届いてしまう。今以上これ以上、不機嫌になって周囲に当たられてはたまったものではない、ということか。
オベールの伝書使すら、何も伝えてこないとは……。
デュランは、実際、ボンシャンが登場するまで黙っておくつもりなんだ。
――っていうか、
「ヴァルドラ?」
「彼は、必要に応じてあらゆる生き物と『暫定盟約』を結び、使い魔として使うタイプだ。知っているだろう?」
ルクレールが言った。
……そう、だ……。
確かに……、セレスタンの記憶を遡れば、そんな情報に行き当たる。
しかし、原作では、彼は白銀のフェンリルと使い魔契約を結んでいた。まるで氷の精霊が具現化したかのような存在だった。視線ひとつで空間を凍てつかせるような威圧感をまとい、凄まじい力を宿していたのだ。
名は――イスファルド・ルーメン・エテルニタス・グラシエルム・アウロラシオン、凍てつく滝の光、永遠に続く氷結のオーロラ。
ボンシャンは「イスファルド」と呼んでいたが、俺は、親しみを込めて彼のことを「シオン」と呼んでいた。あまりに好き過ぎて、ラバーキーホルダーのシークレット枠でシオンが出た時には、手持ちの現金をガチャに全てつぎ込んでしまったこともある。
そんな想い出にひそやかに心を揺らされている暇もなく、現実の空気は急激に張り詰めていく。
デュランの横顔には、これから起こる事態をすべて見通しているかのような冷たい光が宿っていた。
「……ここは、すぐに戦場になる」
「えっ、戦場……ですか?」
低く、ぶっそうなことを囁くデュランの声に、アルチュールがびっくりして問い返す。
驚いた横顔もカッコイイ。
「そうだ、戦場だ。ああ、くそっ。丸薬が足りない。本当に、今日はなんて厄日だ」
「…………」
あとで、中庭をのぞいたら、彼が草を食っているところを見れるかもしれない。
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