◆ 学院編 ディルムッドの騎士 -5-
その後、俺たちは、また先ほどのデュボアとカナードのときのように、オベールにこっぴどく叱られることになった。
先ずは、リシャール殿下が弓を勝手に持ち出した件である。
オベールは淡々と、しかし一言一句に力を込めて非を指摘した。殿下は姿勢を正して耳を傾け、俺たちも同じように頭を垂れるしかない。
横に控えていた騎士、ルクレール・シャルル・ヴァロワは、口角をわずかに上げながらその様子を眺めていた。まるで殿下が叱られるのを愉快がっているかのようにも見える。
鋭い眼差しに潜む色気と、あえて隠そうともしないいたずらっぽい遊び心の気配――見ているだけで、妙に背筋がざわつく。
「……そもそも、大体というものだな!」
オベールの声が一段低く響いた。
俺たちは反射的に肩をすくめる。
「君のような、学院始まって以来の伝説的問題児が、リシャール殿下の武芸の家庭教師を務めたからだ!」
なぜか矛先が不意にルクレールへと向かった。
一瞬、空気が固まる。
思わず顔を上げた。
はい? 今、なんつった?
俺は、一歩前に立つリシャールの体操着の上着の裾を指先でちょいちょいと引っ張った。
「……家庭……教師?」
殿下はちらりとこちらを見ると、肩をすくめて答えた。
「八歳の頃から三年ほどだ。弓と剣を、時々、遊びながら教わった」
ルクレールが肩越しにちらりと俺を一瞥し、口の端をさらに引き上げる。まるで「そうだ」と言わんばかりに。
ええ……、そんな記憶、全然ないんですけど、どうして?
俺――じゃなく、セレスタンは、一応、子供の頃からの殿下の友人だぞ。
「ルクレールは私より七歳年上だから……、彼が十五の頃からこの学院に入学するまでの間だな。セレスが知らないのも無理はない。この男は、ヴァロワ家の"表に出ない子供"だったからね」
「表に出ない……?」
そんな俺の疑問をよそに、オベールは眉間の皺を益々深く刻み、今度はルクレールの過去を洗いざらい持ち出して叱り始めていた。
「学院に在籍していたころ、君は夜ごとに抜け出しては何をしていた? 警備担当の目を幾度もすり抜け、何度、デュランたちが探し回ったことか。挙げ句、変装までして酒場に入り浸り……、そういえば、今、身に付けているのも別の隊の隊服だな」
「……あー……それはですねえ」
ルクレールは肩をすくめ、苦笑しながらも悪びれた様子はない。口角はなおも楽しげに上がったままだ。
「君は、学院にどれほど迷惑をかけたと思っている! 素行不良の者がひとり居るだけで、周囲の規律も乱れるんだ。「あいつが平然とやっているなら、自分も多少は構わないだろう」と、他の生徒までがルールを軽んじるようになる。秩序が崩れるのは一瞬だ」オベールの声音はますます厳しさを増した。「あの時など……「娘が身ごもったのはここの生徒のせい」と訴える親が直々に訪ねてきた。俺はあんな場に立たされたのは初めてだ!」
「でも……あれ結局、父親、俺じゃなかったじゃないですか」
「やることはやっていただろう!」
オベールの叱責は鋭く叩きつけられた。それでもルクレールは、涼しい顔で悪戯を咎められた子供のように目を細めてみせる。
そうか……。この男は、十代で既に『脱童貞』を果たしていたんだな。よし、敵だ。
こんこんと続くオベールの叱責に、デュラン副官は一度こめかみを押さえてため息をつくと、また丸薬を口に放り込み、がりぼりと噛み砕いた。さっきよりクランチ力が強い。
いや、これ、本当に伝説の問題児っぽいな……。
「俺は来る者は拒まないだけです」ルクレールは涼しい顔で言い放った。「やることはやっていただろうと言われましても……当時も説明しましたが、俺、彼女とやったかどうかすら覚えていません」
……なんだ、このヤリチンは? 完全に敵だ!
今、この腰にある剣で、この男のアレを切り落とさなければならないレベルの敵だ。
デュボアのところに行く前に、ネージュとの奇石通信を切っておいて良かった。
あの鳥、ゴージャス・ヤリチン・強引攻めで、また脳内に妄想を膨らませカタカタカタカタ震えるところだった。
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