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◆ 学院編 ディルムッドの騎士 -3-

 オベールは、そんな俺たちの視線など気にも留めず、こちらを見つめた。

「……それで。ルクレール・シャルル・ヴァロワ。どうして、君までここに居る? 負傷者の様子を見に救護室に行くべきじゃないのか?」

「学院に来たのは、殿下の勇姿をこの目で拝もうと思いまして」

 ルクレールの返答に、リシャールが気のない調子で口を挟む。

「……ただの好奇心だろう? 暇つぶしに俺を見物するとは、物好きなことだ、ルクレール」

 名を呼ばれた騎士は、静かに兜を外した。

 その瞬間、短く整えられた燃えるような赤毛が顔の輪郭を縁取り、室内灯の光を受けて鮮やかに輝いた。前髪が額に軽く触れ、規律正しい顔立ちにわずかな柔らかさと情熱的な印象を添えている。

 兜を脇に抱え、口元に軽く笑みを浮かべたその姿は、そこに立っているだけでも周囲の視線を惹きつける、ひときわ強い存在感を放っていた。

「お久しぶりです、オベール警備官、デュラン副警備官」

 オベールの斜め横の椅子にはデュラン副警備官も座っている。


 扉の前で待っていたモローは、最初から俺たちとルクレールが一緒に来ることを伝書使(クーリエ)から報告を受け、知っていた。ならば、この二人も承知していたに違いない。

 デュランはひどく疲れの滲んだ顔でこちらを見てから、何故か大きく諦めのこもったような溜息をつき、額に手を当て視線を落とながら重たげに腰を上げた。

「こんなときに、あなたの顔まで見るとは……。厄日だ、今日は」


 やはり、オベール警備官にとっても、デュラン副警備官にとっても、ルクレール・シャルル・ヴァロワ騎士は見覚えのある相手らしい。しかも、あまり印象は良くない。


 この男は、まず間違いなくこの学院の卒業生だ。王直属の近衛を務める者を多数輩出する名門ヴァロワ家の子息が、学院を経ず、騎士に叙任されるはずがない。

 オベール警備官は、ボンシャンと同級、デュラン副警備官は、見たところデュボアと同年代の三十五歳前後――警備官と学院生として、互いに顔を知る間柄であっても全く不思議ではなく、寧ろ腑に落ちる。


 しかし、なんだろう。

 デュランの様子が、ガーゴイル討伐の場で見たときよりも、明らかに生気が削がれていた。

 さきほど、ルクレールの顔を見た瞬間、また顔色が悪くなった気がするが……、いや、今の「厄日だ、今日は」という言葉から察するに、気のせいではないだろう。

 ただ、それ以前に、彼の身に何があったというのか?

 胸の奥にひっかかるものが生まれる。


 目下のところ、オベール警備官とルクレールの当たり障りのない会話が続く中、俺がデュラン副官を見ながら怪訝な表情を浮かべていたせいだろうか――背後から、モローがするりと俺とアルチュールの間に入り込むと、両者の肩に軽く両手を回してきた。


 それから、「さっきね」と、彼は唇を寄せるようにして小声で囁く。

「オベールさんが、自分の脚にくくり付ける木の切れ端を拾って来いってデュラン副官に言ったんだ。でも副官は、「やめてください、もうすぐボンシャン先生が来てくれます。せめてそれまでじっと座って待っててください。片足ケンケンであちこち動き回らないで。お願いします」って、止めたんだよ。片足ケンケンだよ。片足ケンケン……ぷっ」思い出したのか、モローはそこで小さく噴き出し、肩を震わせた。「そしたら、オベールさん、ブチ切れちゃってさ。ボンシャン先生の名前出すと、普段から不機嫌になるんだけど、それで結局、根負けした副官が木切れを取りに行って、オベールさんの足に(くく)り付けたの。――だから今、あんな状態」

 モローはくすくす笑いながら小さく肩を竦める。


 もう一度言う。

 ……そんなに、ボンシャンが作る義足が嫌なのか。



お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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