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◆ 学院編 ガーゴイル -20-

 その低い声は、ひどく嫌な前触れのように響いた。

 カナードは表情を変えぬままうなずき、俺とアルチュールをまっすぐに見据える。

「無断で戦いの場に出てきた件、詳しく伺います。……移動しましょう」


 叱られることに覚悟はできている。だが、もしも処罰を受けることになったら――今更ながら、巻き込んでしまったアルチュールに申し訳なく思う。

 横を歩く彼に、思わず小声でつぶやいた。

「……ごめんな。俺が「行こう」なんて言ってしまって」

 アルチュールは首を振り、かすかな声で答える。

「違う。俺は、自分一人でも来ていた。……エドマンドのことがあるから」

 ああ……、この男はそうだったな。手の届く範囲のものなら、必死なって守ろうとする――さすが、俺の最推しだ。


 歩きながら、彼の手にそっと触れた。アルチュールはわずかに目を見開き、驚いたようにこちらを見たが、すぐにぎこちなくも力強く握り返してきた。

 自然と視線が合い、短い沈黙のあいだに互いの心の動きを確かめ合う。やがて、どちらからともなく手を離した。

「アショーカ先輩は、きっと大丈夫だ……」

 俺は、囁くように伝えた。

 ここは王立寄宿制男子校ゼコールリッツ学院。実質、士官学校で、最精鋭部隊養成所最高峰。

 つまり教える側に、

「魔術師も治療師(ヒーラー)も医師も揃っている」


 歩き出して少しすると、頭上をひときわ鋭い羽音がかすめ、振り仰ぐと一羽の伝書使(クーリエ)が旋回し、勢いよく舞い降りてきた。

「……ヤン!」

 デュボアが名を呼ぶと、コルネイユ(カラス)は小さく鳴き、彼のもとへ一直線に向かった。デュボアは肘を曲げ、ためらいなく腕を高く掲げる。荒っぽい仕草にもかかわらず、差し出された手にヤンが羽ばたきを収めてとまった。

(あるじ)、リュドヴィック・シルヴァン・オベール警備官からの伝言だ」

 ヤンのくぐもった声が響く。

 俺とアルチュールは、思わず顔を見合わせた。この伝書使(クーリエ)は、オベールの従者だ。

「――君たち、俺の剣に何をした? 後で話を聞く。そっちが終わったら、その腰の剣をぶら下げたまま管理室に来い」

 告げ終えるとヤンは一瞬、にやりと笑い、再び翼を広げ飛び去っていった。


 その場には、デュボアとカナード、そして俺とアルチュールだけが取り残される。

 しん、とした沈黙の中で、誰より先に口を開いたのはデュボアだった。

「……二重に叱ることになりそうだな」



  ༺ ༒ ༻



 その後、俺たちはデュボアの自室に連れていかれ、こっぴどく叱られた。

 途中で一人の騎士に引率されたリシャールとナタンも参加し、四人揃って注意を受けることになった。勝手に戦場へ飛び出し、オベールの剣を弄り、倉庫から弓を持ち出したこと――全てが問題視される。口調は厳しいが、どこか冷静で、必要以上の叱責ではなかった。


 課題として、後日レポート提出と訓練での追加演習が課せられることになったが、停学や重い処罰ではなく、戒めとしては正直、軽いと俺は感じた。多分、この処置には学院側の配慮があったのだろう。なにせ王太子殿下が、俺たちと一緒になって倉庫から弓を無断で持ち出していたのだから。


 デュボアとカナードからの指導が一区切りつき、部屋を出ると、廊下の向こうからレオがやって来た。彼もまた、今回の一件で叱責を受ける対象である。

「レオ! アショーカ先輩は?」

「エドマンドは?」

 思わず駆け寄って訊ねる俺とアルチュールに、レオは深く息を吐く。

「命は取りとめた。命だけは――」

 その言葉に、俺もアルチュールも胸を撫で下ろす。特にアルチュールは、肩の力を抜き、ほっとした表情を浮かべた。

 しかし、レオの顔がすぐに陰った。



お越しいただき、ありがとうございます。

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥ ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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