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◆ 学院編 ガーゴイル -18-

「くそっ。こんなもん、その辺の木切れでもくくり付けておけば充分だ」

 吐き捨てるような言葉が、あまりに整った顔立ちと不釣り合いで、場に微かな違和感を落とした。

「任務に支障が出ます」

「俺の足一本で支障? 笑わせるな」

 オベールは肩をすくめ、投げやりに言い放つ。その無頓着さが、かえって頑なさを際立たせていた。

「……お二人のことは、お二人のことです」表情を消したまま、カナードは淡々と続ける。「ですが、その確執が私たちに影を及ぼすことだけは、どうかご容赦願いたい」

 その声音は冷ややかに平坦で、諫めとも牽制ともつかない――だが確かに、重さをもって場に沈んだ。


「ロイク・アランティゴス・モロー!」オベールが隣の隊長に向けて、ぞんざいに言い放つ。「お前、ジャンの数少ない友達で、しかも、元同じ寮で同級だろう。殴れ」

「えー、嫌っスよー」

 モローは即答した。肩を貸したまま、呆れ顔でため息をつく。

 長身細身の体躯に短く刈った栗色の髪。どこか人懐っこい目元が印象的で、飾らない雰囲気を纏い、気難しい相手のそばでも平然とマイペースでいられる――そんなタイプの男だ。上も下もつい甘やかしてしまうような愛嬌もあり、カッコいいというより、可愛い印象を与える。

「自分で殴って下さい」

「俺が、可愛い後輩を殴れるか」

「その可愛い後輩を、今、俺に殴れって言いましたよね?」

 皮肉っぽくモローが笑うと、オベールは、ふんっとふてくされたように鼻で返した。

「ロイク……、その人を早く救護室へ連れて行ってください」カナードは声のトーンを落とし、地を這うように低く、ぼそっと付け加えた。「……人の友人関係をどうこう言えるほど、あなたも交遊が広いわけではないでしょう」

 一瞬の静寂とともに誰もが息を呑み、口を挟めずにいる中、モローだけが肩を震わせ、はははと軽快に声を出して笑って見せた。自然な仕草に重苦しい空気が少しだけ和らぐ。

「了ー解ー」

 モローは頷き、反対側で顔を引きつらせながら支えているデュラン副警備官と視線を交わす。

 彼は、役職と見た目から考えるとデュボアと同年代くらいだろうか。短髪の黒髪に上品な顔立ち。転生前の俺の母がよく言っていた「シュッとしてはる」タイプそのもの。物静かな雰囲気は、どこか日本の平安貴族を彷彿とさせる。

 真面目そうな中間管理職の男――。


 気の毒に……。


 二人はオベールの体をしっかりと支え直すと、ゆっくりと歩を進め、その場を離れた。

「ジャン、また今度なー」

 去り際に、モローは何気ない調子で振り返り、カナードへそう声をかけた。そのカナードも小さく片手を上げ、頷いている。


 本当に友達だったんだ……。いや、彼に友達がいたこと自体にじゃない。正反対なタイプの二人が友達だなんて、と思っただけで――、


 驚きのあまり顔に出ていたのだろうか。カナードが俺を見ている。いや、見据えている。視線が痛い。

 そして、モローは俺とアルチュールの方を向き、最後に軽く手を挙げて一言。

「お二人さん、凄かったねー。危なげなく決めてくれて助かったよ。ジャン、あまり叱らないでやってくれよー」

 モローの声は明るく、軽やかだった。その調子のまま、彼はデュランと共にオベールを支えて歩み去っていく。

 三人の背中が、ゆっくりと遠ざかり、静けさが戻った。

 目の前には、ほほ笑むカナード。


 ……えっ、笑ってる?


(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥ ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

お越しいただき、ありがとうございます。


ガーゴイル編、そろそろラストに近づいてまいりました。戦闘シーン、書くの好きなので、終わってしまってちょっと寂しい。

また、セレスタンを走り回らせたいな。

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