◆ 学院編 ガーゴイル -17-
「怪我はありませんか」
カナードは静かに歩み寄り、デュボアの顔に視線を向けた。
「ああ、大丈夫だ」
応じる声は低く、落ち着いている。鋭い輪郭と精悍な眼差しが、その答えに説得力を添えていた。
「相変わらず、頑丈ですね」
「まあ、それぐらいしか取り柄がないからな」
短く答えて胸を張るデュボアの姿には、荒々しさよりも凛とした美しさがあった。カナードが軽く微笑む。
「ご謙遜を。頑丈さに加えて、冷静さと勇気も先生の取り柄でしょう。子供たちを守ってくれて、ありがとうございます」
そして、傍らに控えるガーロンへカナードの視線が流れる。
「……あなたもよく耐えてくれました。カリュストから逐一、報告を受けています。ご主人を支え、子供たちを守ってくれた。立派な働きです」
ガーロンは低く喉を鳴らし、ほんのわずかに鼻先を上げて誇らしげに応えた。
次にカナードの目がオベールに向けられる。
「……その足のことは、既に私からカリュスト、そこからボンシャン先生の伝書使オレリアンへ、そしてご本人に伝わっています」
デュボアもにっこりと笑い、オベールに向かって言った。
「俺もノクスに頼んで、オレリアンへ伝言を届けてもらった。急いで戻って来るらしい」
オベールはかすかに肩をすくめ、あっけらかんと答えた。
「医者に直させればいい。別にあいつに直してもらう必要はないからな」
それを聞いたカナードは、わずかに目を細め、息を吐く。
オベールは無言で笑みを浮かべた。まるで忌々しい足を失って清々しいとでも言いたげな――いや、そもそも最初からどうでもいいと言わんばかりの、冷めきった笑みだった。
「直す医師などいないでしょう。あの先生の作品を誰が触りますか?」わずかに間を置き、言葉を継ぐ。「しかも、アルケ・ビスクですよ? フラフラで何日か仕事に支障が出ます。私にはできません。また、ご存知の通り、ボンシャン先生は自分の作ったものに他人の手が触れることを、好みませんし。特に、あなたに関しては」
カナードは言いながら、静かにオベールの目を見据える。
――オベールから直接、義足と義手の話を聞いたときに、アルケ・ビスクの名が出てきた。あとで気になって、俺は調べたのだが、術そのものの難易度はさほど高くはなかった。
難しいのは、人体と一部融合させ、意のままに動くよう仕立てる過程。特に接着の段階では莫大な魔力を要し、足りなければ急性魔力虚脱に陥る。
オベールなら義足を「作る」こと自体は朝飯前だろう。問題は、その後。身体とどう折り合わせるか、ということなのだ。ふと考える。他の医師が作ったとしたら、オベールが見せたような素早い動きを果たして実現できるのだろうか。単なる技術だけでは到底及ばない、才と魔力の桁の違いがそこにあるように思えてならない。
ボンシャンの膨大な魔力量があって初めて成り立つ仕組みを真似るのは難しい。
努力と研鑽を重ねてなお、オベールやカナードのような優秀な魔術師ですら決して追いつけない領域――それは理不尽なほどに、生まれ持った才の差を思わせる。
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(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾
原案者がまだまだ拗らせたいと申しているもので……。




