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◆ 学院編 ガーゴイル -14-

 脳裏に浮かんだのはナタンの顔だった。

 頭の切れる彼ならば、ただ障壁を張るだけでなく、戦況を観測しながら狙撃の補正をしていてもおかしくはない。いや、むしろ彼の律儀で献身的、てきぱきとして細かいところにまで気が回る性格を思えば、それをしないほうが考えられない。

 いわば――、


観測手(スポッター)……」


 射手に代わって風向きや距離、角度を読み取り計算し、最適な射撃を導く役目。かなりの距離があるにも関わらず、リシャールとレオの矢が標的を外さないのも、その見えざる支えがあってこそなのだろう。

 ここまでは確信がある。


 しかもナタンは風の属性を持つ。ここから先は推測だが、矢が放たれるときに空気の流れを操り、微細な揺らぎを打ち消しているとしたら……いや、彼なら単に追い風を送るだけではなく、数学魔法を重ね合わせ風向きや軌道を即座に補正することも造作もないだろう。


 以前、風属性保持者だけを対象にした授業で、木の下に水の入った小ぶりの器を置き、遠く離れた位置から木の葉を一枚だけその中に落とす――正確に風を操る練習があった。同じ寮生で風属性を持つ生徒から聞いた話では、ナタンは何枚もの木の葉を器に入れてみせたらしい。

 後で本人を褒めようと思って話を振ると、宙に数式を浮かべながら延々と数学の話を始め、昼食後だった俺もリシャールもアルチュールも聞いているうちに寝てしまいそうになり、アルチュールは、食器を下げ終わったテーブルに突っ伏して額を打つほどだった。


 どこまで有能なんだろう、あのヘンタ……、いや、なんでもない。

 顔立ちも『金の君』と呼ばれるリシャール殿下レベルで整っているし、実力も申し分ない。だというのに、よりによって、毎日俺に関する日記までつけていたり、一歩後ろを歩くときは、前方から風が吹けば、俺に触れた空気を全部吸い込む勢いで深呼吸をする。気付かれていないと思っているんだろうが、もちろん俺は知っている。以前も別のことで本人に言うと、「知っていてくれたんですかっ」と、何故か妙ににこにこと嬉しそうな反応をされたことがあるから、今回は敢えて指摘せずに黙っている。


 ――あまりに残念すぎてバランスが取れていない。ギャップ萌えどころか、ギャップ萎えの権化だ。


 ……と、くだらないことを考えていたのも束の間、再び奇石からネージュの声が響いた。

《……お前ぇさんとアルチュールの活躍もちゃんと届いてるぞ》少し間を置いて、ぼそりと言葉を続ける。《状況が切迫してんのは分かってたから、気を散らさないよう今まで余計なこと言わずに黙っていた。このお喋りさんな俺が、だ。だがな、こっちの胃はもうきりきり痛えんだ。頼むから、早く無事に帰ってきてくれ》

 その声音に、普段の軽薄さは微塵もない。冗談を言わないネージュの言葉は、思いのほか胸に重く響く。ほんの一瞬、戦いの場でありながら、あたたかいものが胸を満たした。ふと、口角が上がる。

「了解、パピー」


 俺は頭の中で状況を整理する。

 最初に現れたガーゴイルは、今、デュボアが対峙している大型の一体だけ。

 そのため、上空に弓手(ゆんで)を配置するだなんて、誰も考えていなかった。まさかガーゴイルが分裂して増殖し、集団で空を飛びまわるとは、想定外だ。もちろん、リシャールも弓を手にしたときは、単に加勢するつもりだったに違いない。だが結果として、こうして上空から援護してくれるのは、今の状況にとってとてつもなく助かる。完全に戦況が大きくこちらに傾いた。

 上空と地上、さらに周囲で戦う他のガルディアンたちも自然に連携し、圧倒的な攻撃網を形成する。

 矢が飛び、剣が交わり、障壁が敵の動きを封じる。

 この場の全体が一瞬ごとにこちらの掌中に収まるかのような、一糸乱れぬ統制が生まれていた。


お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾


優秀でイケメンなヘンタイ書くの楽しいw

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