◆ 学院編 ガーゴイル -13-
怪物が断末魔をあげて崩れ落ちる。直後――、背後から鋭い叱責が飛んだ。
「――お前たち、何をしている!」
オベールだった。
彼は横から飛びかかってきたガーゴイルを鋭く薙ぎ払い、その刃の余勢を借りるように怒声を浴びせてくる。
「ここは訓練場じゃない! 命を落とすかもしれないと分かった上で飛び込んできたのか!」
剣閃が怪物の翼を叩き落とし、血飛沫が陽光にきらめき飛び散る。
そのとき、上空から新たな影が迫った。
俺は反射的に刃を振り上げ、ガーゴイルの片足を根元から跳ね飛ばした。バランスを失った怪物は地上へと墜落し、土煙を上げてもがく。
すかさず、その体に飛び乗ったアルチュールの剣が怪物の胸を深々と貫き、俺が横合いから斬り込みを重ねると、そこで絶叫が途切れた。
後ずさりで後退しつつ、気付けば俺とアルチュール、オベールの三人は、互いに背を預けるようにして次の攻撃に備えていた。
「まったく……。勇気と無謀は紙一重だ」オベールは低く、押し殺したような声で言った。静かな怒りがこもっている。「勇気は思慮と共にあるが、無謀は仲間と己を殺す。……分かっているのか」
一瞬の沈黙が走る。
しかしすぐに彼は剣を振るい、目の前の怪物を突き伏せた。
返す言葉はなかった。彼の言葉は正しい。
だが俺は、アルチュールが幼い頃から数多の魔物討伐に身を投じ、場数を踏んできたこと、戦場で培った経験と胆力を信じている。
もし無謀だと見える一手であっても、その裏には必ず勝算があるはずだ。
「こうなってしまった以上、今さらもう仕方がない……。お前達を安全にここから逃がすにも、今の戦力じゃ手が足りない。だから、踏みとどまって戦うしかない。だが、絶対に無理はするな。怪我をするな。互いを信じ、全力を尽くして相手を守れ。どんな状況でも、必ず生き延びろ――俺はお前たちを信じている!」
その言葉と共に、俺たちは襲いかかる群れに再び立ち向かった。
視界の端では、別のガルディアンたちが次々と魔物を迎え撃っていた。
何匹かのオオカミも走り回っている。あれはガルディアンたちの使い魔だろう。この世界の魔術師の多くが、契約する使い魔としてオオカミを選ぶ。俊敏で統率の取りやすい性質のため、護衛や戦闘に適しているからだ。
その中でも、デュボアの黒狼は別格だが――。
空に目をやると、十体以上は居た小型ガーゴイルの数が、半数ほどに減っていた。
その戦況を把握しつつ、俺たちは次の攻撃に備える――と、次の瞬間、頭上で風を切る音が走り抜け、影が地面に覆いかぶさった。振り仰ぐより早く、空からガーゴイルが一体、弾丸のように墜ちてくる。
硬質の翼が空気を裂き、落下の衝撃で地面がどんと震えた。
見ると、その体には矢が二本、深く突き刺さっていた。だが、まだ絶命してはいない。怪物は苦悶の声をあげながらも、のたうち回る。
俺は反射的に矢が飛んできた方向を捜した。
《セレス》奇石からネージュの声が響く。《上空に居る伝書使からの報告が続々とこっちに入ったが、リシャールとレオがテラスで弓を放ったらしい》
なるほど――。倉庫から弓を持ち出したのか。
彼は、本編の『受け殿下』のとき、弓の名手だった。もとの物語りの名残りは残っているようだ。
「ああ、今、命中させた」
寮棟のテラスを見上げると、金の髪が陽の光を受けて輝いていた。リシャールだ。その隣にはレオの姿も見える。そして、二人に突進してきたガーゴイルが障壁に弾かれる様子を目にし、俺は即座に理解する。あの障壁力はナタン――ここからは見えないが、背後に控えているのだろう。
直後、二人が再び弓を引き絞り、ほとんど同時に矢を放つ。放たれた矢は互いの軌道を補い合うように走り、旋回していたガーゴイルの片翼と胸を正確に射抜いた。体勢を崩した怪物は、抵抗する間もなく地へと叩き落とされる。
まるで事前に打ち合わせていたかのような鮮やかな連携に、俺とアルチュールは思わず息を呑んだ。偶然ではない精度。その上、射抜かれたガーゴイルは、俺たちの立ち位置を外れて墜ちている――まるで計算されたかのように。
「的確な矢の命中に加えて、落下の軌道すら制御されている……?」
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