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◆ 学院編 入寮発表(前編)

 一旦、食堂に戻り、全員のデピスタージュ(スクリーニング)が終了するのをそこで待つ。

 本来なら入寮発表が行われるまでの退屈で仕方がない長い待ち時間に、衛生管理の行き届いた軽食と飲み物がビュッフェスタイルで自由に好きなだけ摂取出来たのは、どの生徒たちにとっても大変有難かった。辺境の貴族子息や留学生たちが、何となく周囲に馴染みつつあるのもこの心遣いと雰囲気のおかげだろう。見ず知らずの者同士が同じ釜の飯を食べながら次第に打ち解けていく――そういう光景が、今まさに広がっている。


 異世界とはいえ原作によると、時代設定の参考は一八〇〇年代のフランス。

 しかし、これはコルベール家でも感じたことだが、公衆衛生や食事の品質、電気はないが必要最低限のインフラの質は現代の日本とさほど変わらない。

 水属性の魔法陣と浄化魔法を使って整備された上下水道は、この王都では貴族以外の家にまで行き届いているし、街中には火属性の魔法陣が描かれた街灯が立ち並び、夜も明るい。


 さしずめ、無くて残念なのはスマホやインターネット、ゲームぐらいのものかもしれないな。


 ――と、転生前の世界のことをぼんやりと思い出していると、やや低めの落ち着いた声が食堂に響いた。


「諸君、この度は入学おめでとう。そして、お待ちかねの入寮発表の時間だ」


 全員の注目を一身に浴びながら、壇上に置かれたコフル(蓋付きの大箱)の上で喋り出したのは、一羽のコルネイユ(カラス)だった。

 艶やかな漆黒の翼をゆるやかに畳み、眼に暗い琥珀のような光を湛えて、その胸を誇らしげに張りながら、「尚、我が名はゾンブル。ゾンブル閣下である」と彼は名乗った。


 よし、先ずは原作通りに進んでいる。


 留学生たちの間に微かなざわめきが巻き起こる。しかし王国の者は使い魔や言葉を操る動物を見慣れているせいで、特に驚いた様子はない。


「いよいよですね、セレスさ……、セレス。同じ寮になることを心より願っています」

 隣に座るナタンが、興奮を隠しきれない様子で小声で話しかけて来た。頬はほころび、目はきらきらと輝いている。


 余談にはなるが、この世界における『寮』とは、日本の学校制度で言うところの『クラス』に近しい役割を担っている。

 一度割り当てられた寮が変更されることは、三年間の在学期間を通してほぼない。たとえ他寮への移動を願い出たとしても、それが認められるのは極めて明確かつ正当な理由がある場合に限られる。

 寮塔は本校舎の東側、聖堂や食堂とともに、外廊下の回廊によって結ばれている。建物は四棟。いずれも長方形で、その配置はひし形を描くように設計されていた。

 一棟は職員寮だが、残る三棟が学生たちの住まい──第一寮『サヴォワール寮』、第二寮『レスポワール寮』、第三寮『ソルスティス寮』。それらの建物に囲まれた中庭には、回復薬ポーションの素材となる薬草が整然と植えられ、中央には白いドーム型のガゼボが静かに佇んでいる。

 この学び舎において、生徒は入学と同時にいずれかの寮へと振り分けられ、そこで暮らし、学び、友情や軋轢のすべてを経験することとなる。


「セレスって呼びにくいなら、もう好きに呼んでもいいぞ。あと、お前とは別の寮がいいと俺は思っている」

「な、なんでですか、セレスさま!?」


 お前が側に居ると、推し活がはかどらないからだよ――とは口が裂けても言えない。


 壇上では、ゾンブル閣下がくるりと翼を広げて向きを変えた。いよいよ結果が発表される。食堂の空気がぴんと張り詰めた。


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