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◆ 学院編 ガーゴイル -5-

  ༺ ༒ ༻


 レオの奇石からはまだざらついた雑音と、遠くで上がる叫び声が途切れ途切れに流れ込んでいる。

「先生たちは居るか?」

《もちろんだ。既にデュボアが障壁を張りながら学生たちの避難誘導をしているし、オベール警備官と、その指揮下にいるガルディアンたちが戦闘態勢に入ったのを目視できる》


 ――ただ、この学院にいつもいるはずの二人が、今はいない。

『ソルスティス寮』寮監、ルシアン・ボンシャンは水害が起こった地域のその後の浄化状況を確認するために、日帰りで視察に出ている。『レスポワール寮』寮監、ジャン・ピエール・カナードもまた、城に張り巡らされた魔力防壁や結界の点検に朝から呼ばれていて、まだ戻っていないはず。ホールの鍵を借りに行った時、デュボアと少し雑談していた際に、何気なくそんな話が出たのだが……、よりによって、二人の留守中に。


 そこへ、寮棟全体に低く澄んだ声が響いた。魔導通信による避難指示だ。

《全学生は直ちに寮棟の地下避難区画へ移動せよ。各寮室は特殊防壁によって守られているため、基本的に安全が確保されるが、使い魔、伝書使(クーリエ)の雛を飼育している者は、同伴して避難させること》

 その通達とともに、寮の廊下には統率された幾人もの足音が響きはじめた。

 寮監補佐を務める三年生は二人、二年生にも二人おり、長期休暇中を除き、誰かが不在でも必ず誰かが残って全室を開閉できる特別なクレ・ジュメル(双子の鍵)を管理している。今も彼らの一人がその鍵を手に、留守の部屋を順に開け、取り残された雛たちを保護して回っているのだろう。


 レオは手にしていた剣をアルチュールに渡すと、椅子の背にかけていた自分のジャケットを取って羽織り、ゆっくりとホール内を見渡した。

「……状況がはっきりしない以上、無闇に飛び出すのは危険だ」

 その声は落ち着いていたが、わずかに張り詰めている。

 俺たち一年は息を呑む。

 ナタンが小声で「でも、もし学院が襲われているのなら……」と口にしかけたとき、レオは首を横に振った。

「だからこそだ。まずは上級生の俺が確認してくる。本来、俺も地下に行かなきゃならないんだが、エドマンドのことがある。お前たちはここに残れ。……それから、自分たちの伝書使(クーリエ)を忘れるな。避難区画に連れていくのは、お前たちの役目だ」

「レオ、それなら俺も……」

 アルチュールが顔を上げ、言いかける。彼にとってエドマンドはグラン・フレール()。危険の中に置いたままじっとしていられるはずがなかった。

 だがレオは軽く片手を上げて制した。

「一年生の務めは、何よりも自分の身を守り、そして預かっている存在を守ることだ。……俺は先輩として、後輩を無駄に危険に晒すわけにはいかない」


 その言葉には抗えない力があった。

 俺も、アルチュールも、リシャールも、ナタンも――思わず唇を噛む。


 レオは踵を返し、扉の方へ歩き出した。

 だが俺の胸はざわつき、思わず声が出る。

「レオ!」

 振り返ったレオの瞳には、静かな決意が宿っていた。

「状況を見て戻るだけだ。無茶はしない」

 そう告げると、レオは扉に手をかけ、ゆっくりと開けて外へ踏み出す。


 細く差し込む昼の光が、廊下の床に鋭い影を落とした。

 その背中を見送る俺の喉は、ひりつくように渇いていた。



お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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