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◆ 学院編 想い(前編)

 ドアを後ろ手にそっと閉じ、すぐ手に持っていた携帯ゲージを机の上に置く。

 留め具を外して蓋を開けると、ネージュは中からフラフラとした足取りで出て来て、そのまま「ちょっと、バスケットをここに持って来てくれ」と言って俺に寝床を運ばせると、「よっこらせ」と両羽で縁を持って乗り越え、中に突っ伏した。


 飛べよ……。


「……おい、大丈夫か?」

 思わず冷たい視線を向けてそう問うと、くぐもった声が返ってきた。

「……やばい……。今回も尊い。尊い以外の言葉が出て来ない……」

 肩をすぼめ、元々小さい身体をもう一回り小さくしながら、ネージュが全身を震わせる。

「は? ……お前、さっきからずっと震えてたよな。カタカタカタカタカタカタカタカタと。俺がどれだけ周囲に気付かれないようゲージを持ってたと思う? お前が具合でも悪いんじゃないかって心配されて、ややこしい空気になるのを避けようと必死だったんだよ……!」

「なあ、セレス。なんだ、あの生き物は。なんで、あんなにも心の琴線を鷲掴みにしてくるんだ? ちょい悪系でありながら、柔らかい笑みと不器用なまでに真剣な眼差し……、ふつくしい。ビジュアル圧が強すぎて、思考が飛ぶ。『兄』である以上に『友人』になりたいなどと……、尊い。尊すぎる。存在が尊い……! 永久保存版だな」

「いや、聞けよ!」

「レオ……、推せる……。推せるというか、もう崇めるレベル……」

「ねえ、聞いて、ネージュさん?」


 小刻みに震えながら、ネージュは胸に羽根先を当てて、悶絶している。

「見たろ? 無自覚だぜ、あれ。あの自然体で心に矢を刺してくるレオ・ド・ヴィルヌーヴ、怖ろしい子っ。しかし、正面からあれを受け止めて、あまつさえ『友達って思っていいですか? カッコ、裏声、カッコ閉じる』なんて返したセレス、お前の方もヤバい。なんであんな素直なことさらっと言えるんだ……?」

「いや、そんなこと言われても……、ってか、お前、ちょっと落ち着け。人の言ったことを注釈付き裏声で真似すんな。つーか、とうとう、呼び捨てにしてきたな」

「気にするな」

「しねーけど」


 俺は半分呆れながら椅子に腰を下ろし、バスケットの中で打ち震えるネージュを見やる。鳥のくせに情緒が忙しい。

 誰に似たんだか。


 ……俺か……。


「しかし、セレスはアルチュールに傾いてるな……」

「はぁぁぁあ? ち、違ぇし!」

 思わず声を上げた俺に、ネージュは片目だけ覗かせて小さく笑った。

「ん? 動揺した」

「してない」

「したな」

「してねぇって!」

「お前ぇさんワンコ系攻めキャラ好きだもんな。しかも、あのルックスだ。見る者の時間を奪う沈黙の美。近づけば壊れてしまうか、あるいは、こちらが壊されてしまうか。そんな危うい魅力が全身の毛穴という毛穴からあふれている」

「なんか、いいこと言いながら、最後は毛穴なんだな」

「間近で見るの、まだ慣れてないだろ? 横に居る時はチラチラチラチラ見てるよな? ……で、時々、お前ぇさんの視線を感じたアルチュールが振り向いて、バチッと目が合って、ちょっとアタフタしてんの。あれがまた……、視線受けぇー振り向く君のーその顔にぃー、動揺の波ー実に良きかなぁー」

「急に詠むな。しかも、なんで朗読調なんだよ」

「いや、これは心の歌……。言葉では収まりきらぬ想いが、五七五七七に姿を変えただけであって……」

「どこの(いにしえ)のオタクだよ。まあ、確かに。毛穴から漏れ出してるなにかが強すぎて、呼吸のリズム崩れるけど。見てるだけで酸素が足りなくなる。推しのすぐそばに居られることは至高の喜びなんだが、たまに視線そらして息継ぎしないと無理。しんどい」

 思わず苦笑して首をすくめると、ネージュはふいに少し首を傾げて見せた。

「人、それを恋という」

「だから、違うって言ってるだろう!」

「……そう言い切れるあたり、まだ重症ではないと見える」

「いや、そもそもそういう目で見てねぇって……」

「では、今のところアルチュールもリシャールもナタンもレオも、『特別に気の合う友人』ということで、整理しておいてあげようかね?」


 ぐっと羽を伸ばし、バスケットの縁に寄りかかりながらネージュは毛づくろいを始めた。さっきまでの熱狂はどこへやら、あっという間に気ままな調子に戻っている。

 窓から差し込む月の光が、白い羽根を銀色に縁取る。


「……話は変わるが。セレス、――さっきのストーン・ホルダーの内部、見たか?」

「ああ。少しだけ」

 俺は内ポケットに手を伸ばし、ざくろ色の魔法布に包まれた二つの《ノルデュミールの籠》をそっと取り出すと、デスクの上に並べて置いた。


挿絵(By みてみん)


アペリオ(開け)

 短く呪文を唱えると、カチリと音を立てて蓋が開く。俺は身を乗り出し、中を覗き込んだ。


 蓋の裏――そこには、極細の魔力線が蜘蛛の巣のように広がっていた。カナードが描く繊細を極めた魔法陣の編み目は、見る者に静かな威圧感すら与える。



お越しいただき、ありがとうございます。


※『湖畔の館 (七話完結予定)』もアップしてます。

BL風味

『#夏のホラー2025 テーマは「水」』に参加中


(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾宜しくお願い致します

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