◆ 学院編 ストーン・ホルダー(余談2)
その後、場の緊張がゆるやかにほどけていき、それぞれが自室へと戻る流れとなった。
俺は改めて、デュボア、ボンシャン、カナードの三人に向き直り、静かに深く一礼をする。
「ありがとうございました」
三人とも穏やかに頷き、あたたかなまなざしを返してくれた。
「礼には及びませんよ」
「協力出来て何よりだ」
ボンシャンとカナードがそう言って、微笑む。その声は穏やかで、なおかつ、芯のある温かさがこもっていた。
デュボアは少し身体を前に傾け、真剣な表情で続けた。
「また何かあったら、すぐに知らせてくれ。俺が不在の時でも、ボンシャン先生かカナード先生のどちらかに頼れば大丈夫だ」
彼の言葉には責任感と信頼がにじみ出ていて、俺の胸にしっかりと響いた。
部屋を出る前、俺は肩にとまっていたネージュをそっと携帯用のゲージに収めて蓋を閉じ、手に提げてから静かにドアをくぐった。
サヴォワール寮の一階廊下を進み、淡い明かりに照らされた階段へと向かう。
二階に着いたところで一度立ち止まり、カゴを持ち直して正面から向き直る。
「レオ。今回は本当に、いろいろと気を配ってくれてありがとう。心から感謝しています」
いきなりかしこまってそう言った俺を見て、レオは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。そして、どこか照れ隠しのように、軽く眉根のあたりをかきながら口を開く。
「ま、本当は、担当のグラン・フレールとして当然のことだって、そう言うべきなのかもしれないが……、それだけだと、なんだか義務でやってるみたいに聞こえてしまうだろう? ……俺は、セレスにとって『兄』であること以上に、できれば『友人』にもなれたらと思っている。これから、そういうふうに……」言い終える前に、レオは少し恥ずかしそうに視線をそらし、肩をすくめ、言葉を探すように息をついた。「……なんだか、柄にもないことを言ってしまったな」
胸の奥がじんわりと温かくなって、思わず笑みがこぼれる。
「俺も、『友達』って思っていいですか?」
レオは目を細め、口の端をゆるく上げて、穏やかに微笑み頷いた。
「じゃあ――おやすみ、セレス」
「おやすみなさい」
背を向けて去っていくレオの後ろ姿をしばらく見送る。
夜の静寂が胸の奥を優しく撫でるように広がっていく。
その直後。
背後で、ナタンの長い長いため息が静かに漏れた。
「……はあ~~~……」
ふと左右を見やると、リシャールとアルチュールの二人が、揃いも揃って、わずかにうつむいたまま考え込んでいる。片手は額に、もう片方は肘を支えるように添えられ――その姿は、どこか哲学的な苦悩すら滲ませていた。妙に荘厳さを感じる。
……座っていたら、まるでロダンの彫刻だな。
「セレス……、懐に入りすぎだろ……」
「セレス、君はちょっと、天然がすぎる……」
二人の困惑まじりの声が、妙に静けさを帯びて響く。
そんな中、ふとカゴを持つ手に、ブルブルと小さな振動が伝わってきた。
この鳥、今、絶対、両翼の先でくちばしを隠し身を震わせてやがるな……。
カタカタカタカタ……、と小刻みに震えるゲージを手に三階に到着すると、アルチュール、リシャール、ナタンと並んで廊下を進む。
部屋の前で足を止め、それぞれに「おやすみ」と短く言葉を交わした。明日も授業がある。名残惜しくとも、話し込みすぎるわけにはいかない。夜の語らいには限度がある。
扉の前で深呼吸をひとつ。そっとノブを回し、俺は静かに自室の中へと入っていった。
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