◆ 学院編 帰還 -余談3-
次の瞬間。
白い光が弾け、そこに立っていたのは、少年だった。
年は、十代前半ぐらい。白銀の髪に凄まじく整った顔立ち。しかし、野生……だからか? 雰囲気が全体的に荒っぽく、バラガキめいた空気を纏っている。
そして、着ている服が、俺のものと驚くほど似ていた。色合いも、形も、留め具の位置まで。
魔法で模倣した、か。……やっぱり、そこそこ魔力、残ってるだろ。
「……本来の魔力がないと、こうなるのか……。長きを生きた風格ある姿には、なれなかった」
見た目に反して、声だけはやたらと渋い。
少年の口から出てくるとは思えない、重厚で深みのある低音が、不満げにそう告げた。
――見た目は子供、中身は老獣。
ルクレールが、眉間にしわを寄せ、アルチュールが、完全に“森へお帰り“案件の目をしている。
「セレスが望むのなら、耳も生やせるぞ!」
カスタマイズ可能とか、それは、ちょっとそそられるものもあるが……。
「……困ります」
俺は、深いため息をついた。
「人型になっても、困ります」
「……な、なぜだ」
シオンは一瞬たじろぎ、それから姿勢を正す。
「わ、私は……高位神獣フェンリルだ」
一拍。
「もし、使い魔として、き、貴殿に採用されるのであれば、その……主のために、誠心誠意、力を尽くす所存だ。警護、索敵、戦闘――、そうだ! 夜間の見張りも引き受けよう。私は眠りをそれほど必要とはしないからな。眠るのは好きだが、起きていろと言われれば起きていられる。耳もいいぞっ! 近付く敵は直ぐに分かる。傍まで来たら即、ガブリだ! 主命には忠実を誓う」
……なんだこれ。
完全に面接じゃないか。
「……ああーっ、もうっ!」
こんなの、俺が圧迫面接している側みたいな気分になるだろう。
視線を少し下げ、シオンを見つめる。
引く気、ゼロだな。
冥界で見せてくれた、光景が脳裏をよぎった。
セレスタンの姿。そして、綾ちゃんの笑顔。
俺が、知りたかったこと――あれを見せられて、何の恩も感じないほど薄情ではない。
でも、こっちの世界に戻ったら、本当にそのままシオンはどこかへ行くのだとばかり思っていたんだ。
まさか、一緒にいさせてくれるか、なんて言い出すとは――想定外。
「……分かった。意気込みと意思表示については、把握させていただきました。今回のところは、一応、本日付で同行を許可しますが、正式な契約は、まだ結ばない」
「な……?」
「今は仮採用だ。しばらくは、このまま観察。俺、学生だからね。ずっと一緒にはいられないんだ。とりあえず研修部署に回す。適性確認を兼ねてガルディアン管轄で預かりをお願いしようと思う」
一拍置いて、言い切る。
「同行の条件は……、いまのところ思い浮かんだのは、学院内で、事情を知らない人の前では犬のフリ。喋らない。森に帰れって言ったら帰ってくれ。それから、ネージュが最上位。次がダンサー。その下に、シオンだ。順番は忘れるな――特に、シオン。お前の命の恩人は、ダンサーとネージュだから」
条件を挙げるたび、シオンは短く、しかしはっきり「はい」と返事をしながら頷く。
ルクレールが、吹き出しそうになるのを必死で堪えている。
ったく、この眼帯騎士。見てるだけじゃなくて、間に入ってくれよ。
楽しんでるだろ、お前。
一応、相手は神獣だぞ。俺一人に対応させるなよ。
「……承知した……しました。仮であろうと、主命は主命だ。従おう」
人型のシオン少年は、少しだけ目を伏せ、それから真っ直ぐこちらを見詰めた。
妙に律儀な老獣だ。
俺は、深くため息をついた。
「厄介なのを拾った気がする」
༺ ༒ ༻
その後、馬車に戻ってからが、またひと騒動だった。
遠目にも分かるほど慌てた様子で、シャーとナタンがこちらへ駆け寄ってくる。
勢いのまま、
「遅い! 遅かったじゃないか、心配したぞ!」
「ご無事でしたか、セレスさまーーっ!」
その背後で、ジュールと御者が慌てて追いついた。
「ご帰還、お疲れさまです。ヴァロアさんたちの進路も不明な状況で、この二人が森へ入ろうとするのを制止するのは、正直、相当骨が折れました」
ジュールのそんな言葉に返答する間もなく、場の空気が微妙に変わった。
集まっていた視線が、一斉に俺の背後へと吸い寄せられる。
「……なんか……増えてますね?」
ナタンが、遠慮がちにそう呟いた。
彼の視線の先を追うように、シャーも目を細める。
ルクレールとアルチュールがイオンデーラとノアールをブレスレットとバングルに戻す中、ジュールがシオンを見詰めて小さく首を傾げた。
「……子供、ですか?」慎重に間を置いて、続けた。「森で……迷子――?」
次の瞬間。
「えっ……」
ナタンが、目を見開いた。
「セレスさまっ、もしかして……産みました?」
「なんでだよっ!?」
反射的に叫んだ俺を無視して、ナタンは真剣な顔のまま、アルチュールとルクレールを交互に見て、そして少年型のシオンに視線を移す。
「お父さんは、どっちですか?」
「だから、産んでねぇ!」
ようやく、セレスの使い魔(仮)が決まりました。
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