◆ 学院編 帰還 -余談2-
「要点だけ話すとだな……、頭骨に触れた瞬間、意識が冥界に引き込まれた。正確には、呼ばれた、って言った方がいいな」
「呼ばれた……?」
ルクレールが眉をひそめ、言葉の意味を噛み砕こうとする。
「龍脈災害で分断されたフェンリルの“中身”が、冥界に留め置かれていた。骨は錨としてこの世界に残っていて……俺は、そこに触れたことで繋がった」
「……で、その結果が――」アルチュールが、白い犬を見る。「フェンリル、というわけか」
「そういうこと。それから、向こうではネージュも呼ばれていた。ネージュの状態は……、その、いつもの彼とは少し違ったけど……会ったよ。今はネージュも無事に帰還し、オグマやマルス、シエルたちと遊んでいる」
「それが、さっきの通信……」
アルチュールが、ようやく腑に落ちたという顔で呟いた。
どうやら、“要点だけ”のつもりでも、十分すぎるほどの内容だったらしい。
アルチュールとルクレールが視線を交わし、次いで、同時に俺へと戻してくる。
しばしの沈黙。
ルクレールが、ゆっくりと息を吐いた。
「……規模がでかすぎて、理解が追いつかん」
「まあ、こうやって骨もフェンリルに戻れたことだし、終わりよければ全てよし! ということで……」
俺は足元に視線を落とし、「これで安心しただろ?」と彩尾鳥のダンサーに声を掛ける。
すると、ダンサーは一瞬、首を傾げてから、こくり、と縦に振った。
「お前、あの骨が神獣って分かってたんだな。生体反応があったから、助けなきゃって思ったのか?」
問いかけに、ダンサーは鋭い眦をさらに尖らせつつ、口角を持ち上げて笑い、もう一度、首を縦に振った。
なんだろう。この笑顔がまた……、見る者を一瞬で黙らせる、修羅場をいくつも潜り抜けてきたヒットマンのようだ。
しかし正直なところ、もし骨のすぐそばに立っているダンサーを、俺たちではなく他の人間が見つけていたら……、「お前が殺って、食ったんだな?」と思われても、まったく不思議ではなかったはず。
M16のスナイパーライフルがやたらと似合いそうで、うっかりミニチュアを作って背中に背負わせてみたくなった。
「よし。じゃあ、心残りはないな? 馬車に戻る気になったってことでいいな?」
再び、こくり。
「さて」俺は立ち上がる。「そろそろ、殿下たちも心配してる。早く戻ろう」
アルチュールが頷く。
「そうだな。馬車に戻ったら、シャワールームで怪我とかしてないか見せてもらうぞ」
「大丈夫だって。どこも怪我してない。そんなに心配なら、寮に戻ってから全身くまなくチェックしたらいいじゃないか」
俺は肩を竦めた。
「そういう問題じゃない」
アルチュールは低く息を吐き、次の瞬間、俺を引き寄せた。
腰に腕が回り、逃げ場がなくなる。
「目を離してもいないのに、どうして毎回、こんな危険なことに巻き込まれるんだ」
俺の額に自分の額を押し付けるようにして、ぼそりと言う。
「……こっちの心臓がもたない。セレス」
「ごめんな。もう、正体不明のものには触らないようにする」
さすがに、そう答えるしかなかった。
「おい……。お前ら」
「ん?」
俺たちは二人同時に声をした方へ振り向いた。
「俺の存在、完全に忘れてるだろ?」
冷ややかな声。
そこには、アルチュールを睨みつけているダンサーの隣に、目つきの悪いのが一人増えていた。
「今な、お前らが半年以内に別れるよう、呪っておいた」
増えた方――ルクレールが、やけに穏やかな声で言う。
……大人げねぇ。
アルチュールは俺を離し、即座に言い返す。
「絶対に別れない! そもそも、既に婚約済みだ」
「だから呪ったんだろ!」
「そんなもの、跳ね返してやる。今も、これからも、ずっと俺のセレスだ。頭の先からつま先まで、全部、俺のだ!」
「魔眼、開放すっぞ!」
完全に売り言葉に買い言葉。聞いていて恥ずかしくなる。
なんなんだよ、この二人……。
そのやり取りを横目で眺めながら、俺は足元に視線を落とす。
「疲れてるだろ? 抱いてってやるよ」
しゃがみ込んでダンサーに手を伸ばすと、ダンサーは一瞬だけ目を見開き、次の瞬間、素直に腕の中に収まった。
軽い。温かい。
「イオンデーラもノアールも、行くぞ。じゃあ――」俺は振り返り、フェンリルに手を振る。「そういうことで。元気でな、シオン」
「………………」
瞬間、フェンリルが固まった。
数秒。
「ちょ、ちょっと待て!!」
慌てた声が上がった。
「ん?」
俺は首を傾げる。
「わ、私は……フェンリル、だぞ!?」
「うん」
「高位神獣だぞ!?」
「うん」
「……その……、セレス?」
声のトーンが、急に変わる。
「お前は……まだ、使い魔と契約していないようだが」
「してないな」
「ならば……」
シオンは、やや視線を逸らしつつ言った。
「わ、私が……なってやってもいいんだぞ」
なんだ、このツンデレは……?
でもなぁ……。
「……断る」
「えっ」
「断る。俺、カナード寮監の空飛ぶ風蛇みたいな使い魔、いいなーって思ってて。フェンリルは飛べないだろ?」
「なっ……」
「なので、断る」
シオンは引かない。
一歩、いや、半歩、俺に近づく。
「ま、待て……!」
「待たない」
俺は、ため息をついた。
「使い魔は空が飛べるのがいいです。動物は、もうネージュがいるのでうちではこれ以上、飼えません! ダンサーですら例外なんです!」
「……動物……」
「身体も戻ったんだし、森へお帰り。ちょっと小さいけど、頑張れ。お前なら何とかなるって。多分」
俺は真顔だ。
「……完全には戻っていない。魔力が、まだ足りん。一人で森に戻るのは……少々、厳しい」
「冥界の闇を遠吠え一つで粉々に砕いたくせに」
「……そっ、それだ! それ、それ! それで、最後の力を全部使い切った!」
嘘つけ。
「そんな一時のノリで全力を使い切るタイプは、使い魔として採用していません」
「うっ、……なら」
シオンが、少し考えてから言う。
「動物枠がいっぱいなら、人型になれば……、セレスと一緒にいさせてくれるか?」
嫌な予感。
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押しかけ使い魔……




