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◆ 学院編 帰還 -7-

「だろう?」

 ルクレールは、その様子を一通り眺めてから、満足そうにうなずいた。

「解除だけじゃなく、あとは、拘束のほうもやってみたらいい」

 そう言いながら、彼は軽く手を叩く。


「二人ずつ組んで、縛る側と解く側を交代しながら色々試せ――まあ、俺はその間、ちょっとな」

 その言い方が妙に歯切れよくて、嫌な予感がした。

「ルクレール。なにを……」

 俺が言い終わる前に、彼はもう背を向けている。

「ジュールが寝ている今がチャンスだ」

 堂々と言い切って、ルクレールはサイドボードへ向かった。

 引き出しを一つ、二つと開け、さらに奥を迷いなく探る。

 そして、一本のワインボトルを取り出し振り返った。

 ――とてもいい笑顔。


「おい……」

 文句を言う気力よりも先に、呆れが勝つ。

 ルクレールはグラスも一緒に手に取り、何食わぬ顔でダンサーのすぐ隣に腰を下ろした。

 ポケットから取り出したナイフでコルクを抜く音が、やけに軽やかに響く。


 ちらりと視線を向けると、殿下の護衛は相変わらず爆睡中。そして、その上司がこれかよ。


 だが、誰も本気で止めようとはしなかった。

 むしろ、ルクレールが完全に「見守り役」に回ったことで、場の空気は少しだけ緩む。


「――じゃあ……次。誰が縛ろうか?」

 リシャールからそんな言葉が上がり、自然と練習は再開された。

 術式が交わされ、解かれ、また組み直される中で、ワインの香りがほんのりと混じる。

 グラスに赤い液体を注ぎながら、ルクレールがふと顔を上げた。

「せっかくだ。ダンサーくん、お近づきのしるしに一杯どうだ?」


 おいおい、それは冗談が過ぎるだろう。


 言ってから、ルクレールはふっと目を細めた。

「……いや、お前、飲めないよな?」

 笑いを含んだ声に、ダンサーは静かに首を横に振った。

「ん?」

 ルクレールが、少し首を傾げているのを俺はアルチュールを縛りながら横目で見る。

「それは、どっちの意味だ。飲めないのか? それとも……」

 問いかけに、ダンサーは今度は、ゆっくりと首を縦に振る。目尻がわずかに下がり、どこか悪戯めいた色が滲んでいた。

「え?」

 思わず、アルチュール以外の全員がきれいに声を揃えた。


「……飲めるのか」


 ルクレールは一瞬だけ驚いた顔をして、それから愉快そうに口角を上げた。

「なあ、アルチュール! こいつ、飲めるとか言ってるんだが。本当か!?」

 名を呼ばれたアルチュールは、俺が拘束魔法をかけている縄を見下ろしながら淡々と答える。

「ああ。普段から森でたまに発酵した樹液や果実を好んで飲んだり食べたりしているようだ」

「発酵……」

 ルクレールが興味深そうに眉を上げた。

「それに、彩尾鳥には体内に食べ物を溜め込める素嚢(そのう)という場所があり、特にエル……ダンサーは、そこに美味いアルコールになる果物をわざわざ選んで入れて、自身の体温で発酵させている可能性まである――とマルセルが言っていた」

「体内酒造かよ……」

 俺が呟くと、ルクレールが楽しそうに言葉を継いだ。

「はは……なるほど。そりゃ、下手な酒場の自家製の酒より出来がいいんじゃないか」

 ダンサーは一瞬だけ瞬きをして羽の先を顎に当てると、口元をほんのわずかに、だが確かに、にやりと歪ませた。

 褒められたのを理解しているらしい。

「それ、ダンサーの身体に負担はないんですか?」

 全員の視線が、ナタンに向いた。

「これもマルセルが言っていたことだが、問題はないそうだ。微毒のあるゲッコー(ヤモリ)を食べても平気で、肝臓で分解している」


「彩尾鳥は、解毒特化型魔鳥類ですよ」


 少し掠れた声が、背後から落ちてきた。

 全員が一瞬、そちらを見る。

 いつの間にか目を覚ましたジュールが、片目を擦りながらこちらを見ていた。


「毒性のある果実や小動物を摂取する前提で進化している種です。肝機能が強く代謝も早い。オーガ(巨大オーク)ですら麻痺させるといわれている夜蛇(やへび)の毒でも体内で中和して終わり――なので、毒でないアルコール程度なら、かなりの度数でも些細なものですね。まあ、酔いは回るでしょうけど」

 淡々と説明しきってから、小さく息を吐く。

「……それより」

 視線が、ゆっくりとサイドボード、それからテーブルの方へ移った。


 抜栓されたワインボトル。

 グラス。

 そして、いかにも楽しげな顔のルクレール。


「……夢の中でワインの匂いがしました」

 低く落とされた一言に、ルクレールは悪びれもせず、肩をすくめて笑った。

「起こしたか?」

「ええ。完璧に」

「飲むか?」

 その一言に、ジュールは即座に眉をつり上げた。

「当たり前でしょう! 飲まないと、ヴァロアさんが全部飲むじゃないですか!」

 勢いのまま一息で言い切り、さらに畳みかける。

「言っておきますけどね、スピリッツは“二人で飲め”って渡されたものですけど、そのワインは俺個人が貰ったやつですよ! デュラン副官から! ガルディアン隊員みんなの憧れ、デュラン副官からです!」


 えっ、やっぱりそうなの? ガルディアン隊員、みんなが憧れてるんだ……。

 古代遺跡への校外学習で関わった生徒、しかも受けも攻めも関係なく、ことごとく虜にしただけのことはある。

 あの人、魔性じゃないか……。


お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥ ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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