表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/227

◆ 学院編 帰還 -2-

「……え」

 一瞬、静止。


「エルは既に彼氏気取り……、いえ、これは夫気取りですね……、坊ちゃま」

 苦笑混じりにそう言ったのは、マルセルだった。その視線はダンサーではなく、すぐ傍らに立つアルチュールへと向けられている。

 アルチュールは、眉根を寄せてわずかにため息をついた。

「エルの羽で飾られたセレスはとても綺麗だが……、文句のつけようはないんだが、どうしても素直に喜べない……複雑な気分だな」

「しかし、器用ですね……」

 ナタンが純粋に感心したように呟き、「似合ってるよ、セレス。とても美しい」とリシャールが完璧な笑みを浮かべて言った。

 その横で、ルクレールは無言のまま口を引き結び、視線を逸らす。

 剣を収めた後の騎士というより、静かに負けを認めた男の顔だった。

「……鳥に敗北感を覚えたのは、さすがに初めてだ」


 いや、待って。そこまで深刻になることか、これ……。


 横目で見ていたジュールが、肩を震わせている。

 唇を噛み、視線を床に落とし、必死に笑いを飲み込んでいた。


 俺は、そっと指先で羽に触れる。

「……なかなか、いかしたことしてくれるじゃないか」

 そう言うと、ダンサーは片目をすがめたあと、羽をふわりと広げて一歩下がった。


 そんなダンサーを優しい目で見つめながら、マルセルはしゃがみ込んで視線を合わせた。

「……元気でいるんですよ、エル。ちゃんと食べて、ちゃんと休んで……。それから、入っちゃ駄目って言われた場所には、近づかないこと。これから行くのは学院です。勉強している人がたくさんいる場所ですから、静かに、ですよ。邪魔をしないように。あとですね……セレスさまも、私と同じでカピカピに乾いたゲッコー(ヤモリ)は召し上がりませんからね。間違っても、プレゼントなんてしちゃ駄目ですよ」

 一瞬、ダンサーが、ぴたりと固まった。

 そして、「えっ? 食べないのか?」とでも言いたげに、口を開けて目を丸くする。

「乾いてなくても食べませんからね! 捕まえて貯め込まないように」

「……貰ったことあるんですね、マルセルさん?」

 思わず俺がそう訊くと、どこか遠い目をしてマルセルは頷いた。

「はい……。助けたお礼に、後日、頂きました……」

「マルセル。虫もいらないって、ちゃんと言っておいてくれ」

 横から、アルチュールが真顔で追撃する。


 その後、マルセルは思い付く限りの注意事項を、指折り数えながら淡々と言い聞かせた。

 ダンサーは、その一つ一つを逃すまいとするように聞き、最後に一度だけ、こくりと頷く。


「ホームシックになったら、いつでも連絡をください。迎えに行きますから。それじゃあ……行ってきなさい」

 ダンサーが胸を張り羽を整えると、マルセルは小さく笑って何も言わずに立ち上がった。


 扉が静かに閉まり、御者の声がかかる。

 次の瞬間、馬車はシルエット家の人々に見守られながら、ゆっくりと動き出した。



  ༺ ༒ ༻



 ほどなくして、街道の景色がなだらかに後ろへ溶けていった。

 夏の風は穏やかで、タイヤを巻いた車輪の音さえ子守歌のように一定だ。石畳の継ぎ目も柔らかく受け流す。走っているというより、まるで滑るよう。


 さすがはサスペンション、路面からの衝撃や振動を吸収してくれる装置なだけあって、車内は驚くほど快適です。


 しかし、それが仇となったのか――。

 昨夜の晩餐で少々飲み過ぎたこと、加えて今朝は早起きだったことも重なったのだろう。

 ジュールは出発してほどなく、背もたれに身を預けたまま、すっかり眠りに落ちていた。

 首がかくりと前に倒れ、また戻り、やがて完全に動かなくなる。

 行きの道中は、何かと物珍しく、誰かが話し誰かが笑い、車内も自然と賑やかだった。

 対して帰路では、沈黙が気まずさではなく、心地よさへと変わる。

 緊張がほどけたあとの安堵が、静かに広がる頃合い。


 旅の、あるあるだな。


「……しかし、こいつ……自分が殿下の護衛ってこと、忘れてるな……」

 呆れたように言ったのは、向かいに座るルクレールだった。

赤い豹、カミュエル(ルクレール)が居るから、すっかり安心してるんじゃないのか?」

 俺がそう返すと、ルクレールは一瞬きょとんとし、それから小さく笑った。

「俺のこと、ちゃんと評価してくれてるんだな、セレス」

「そりゃあな」

 俺は軽く肩をすくめる。


お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥ ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾


折角、寒さが緩んだのに、また寒波が来るみたいです。どうぞ、お気をつけて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ