◆ 学院編 帰還 -1-
正直、ジュールの顔が鳥になるところを見てみたい気もしたが……、仕方ない。
俺が前に出る。
「ダンサー。聞いてくれ」
視線が、こちらに向く。
「うちには、もうネージュっていうコルネイユがいる。寮の部屋では、これ以上は飼えないんだ」
しっかりと目線を合わせてそう言うと、ダンサーは、しゅん、と肩を落とした。
……だが、降りない。
そのとき、アルチュールが入口に顔を向ける。
「マルセル、来てくれ」
何事かとばかりに、すぐに駆け付けた厩務員のマルセルが顔を出し、状況を一目で察した。
「ああ……ここに居たんですか……。探しましたよ、エル」
しかし、ダンサーは、ちらりとマルセルを見ただけで、その場を譲ろうとしなかった。
羽をすぼめ、嘴を胸元に寄せたまま、馬車の床に踏ん張っている。
これは、てこでも動く気はないな。
「……だめか」マルセルは苦笑し、肩をすくめた。「無理に降ろすと、王都の方へ飛んでいきそうですね」
「だろうな」
アルチュールが頷く。
「彩尾鳥は、魔物に襲われにくい。ムース・レザール同様、肉が特別に不味いし、森では身の隠し方も心得ている。だが、ここから王都までは別だ。一羽で飛ばせる距離じゃない。その羽は木々の中では迷彩になるが、開けた場所では目立ちすぎる。魔物より厄介なのは、人間だ。羽目当てで近づいてくる。勝手に飛ばせて、無事を期待できる相手じゃない」
「困りましたね……、どうしましょうか……」
ナタンがルクレールを見上げて言った。
「ああ……、もう仕方ない。……連れて帰る」
即断。
「ガルディアンの馬の厩舎近辺に放して、厩務職員とデュボア寮監に世話を頼むか……。特にデュボア寮監、動物のことはあの人に任せておけば間違いない。俺からも頭を下げてやるから」
その瞬間。
ダンサーの顔が、ぱっと明るくなり、そして、足取り軽くルクレールの方へ寄っていく。
げんきんだな、お前……。
「こらっ、懐くな」
そう言いながらも、ルクレールには追い払う気配はない。
その横顔が、ひどく優しくて不意に子供みたいな表情をするものだから、胸の奥がほんの一瞬だけざわついた。俺は、その感覚を悟られないよう、意識して視線を逸らす。
「おい、セレスっ、なんかくれたぞ、コイツ!」
ルクレールはそう言って振り向き、少し得意そうに、手にしたものをこちらへ掲げた。
それは、彩尾鳥の羽――だが、俺がもらった尾羽とは違う。
風切羽。
しなやかで、淡い光沢を帯びている。美しい羽だった。
「……綺麗ですね」
ジュールが、少し声を落として言った。ルクレールの手元を覗き込み、感心したように目を細めている。
「魔力を薄い膜状に定着させて繊維の内部に流し込み、保存と同時に質感も色も固定するコーティング技法のエテルナ・ヴェールをほどこすと、素晴らしいアクセサリーになりますよ」
「さすが、ジュールだ……」
情報の集め方が幅広い。
俺が思わずそう言うと、彼はにこりと笑って肩をすくめた。
「希少な羽ですからね。遊び半分で触るべき素材じゃありません。加工するなら、きちんとした魔道工芸の専門家に任せるのが無難でしょう」
そして、ふと思い出したように視線を宙に向け記憶をなぞるように付け加える。
「以前、先代宰相の奥方が、彩尾鳥の風切羽を使ったブローチを付けているのを見たことがあります。石でも金属でもないのに、宝石みたいで……光の角度が変わるたびに、色が違って見えて。同じ色は、二度と現れませんでした」
ルクレールが、ほう、と小さく息を吐く。
「尾羽より、こっちの方がアクセサリーの加工に向いてるってことか」
「ええ」
ジュールは頷いた。
「無茶苦茶に高価、というわけではありません。でも希少です。大金を積んでも、手に入るとは限らない。欲しい人なら、金貨を払ってでも探します」
同じ色は、二度と現れないとは。なんて魅力的なんだろう。
「……いいな」
思わず、ぼそりと俺がそう漏らした声が、どうやらダンサー本人に聞こえていたらしい。
彼が、すっとこちらを見たかと思うと、直後、自分で、もう一本、同じ羽を抜いていた。
そして、じっと、俺を見据える。
……圧が強い。というか、やっぱり眼力が凄まじい。
俺が一歩近づき、そっと手を差し出すと、ダンサーは頭を上下に振った。
まるで「来い」と言っているような仕草だ。
もう一歩、近づいて俺がしゃがんだその瞬間。
ひらり。
ダンサーは軽やかにテーブルへ飛び乗り、俺の目の前でくるりと向きを変え、優雅な仕草で羽を俺の髪へすっと、挿した。
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