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◆ 学院編 シルエット家領地へ -31-

「……これは、また」

 しばらくノートを凝視していたガルムが唸る。

 その空気の変化を察したのか、傍観者に徹していたルクレールとジュールの目が、すっと細くなった。

「えらいもん考えはったな」

「力の逃がし方が上手い」

「連射時の反動処理、なるほど……」

 指先で式をなぞりながら、二人が視線を交わす。

「ここ、力が集中するやろ。わしらのルーン魔法陣を描いた刻印符を一枚噛ませたら、まず壊れまへん」


 刻印符。

 ドワーフのルーン魔法陣を描いた、貼り込むだけで器具の耐久を底上げする魔法符。

 一般にドワーフは仲間意識が強く、頑固で、他種族に技術を渡したがらないと言われている。その気質ゆえ、刻印符が市中に出回ることはほとんどない。

 古い器具から見つかれば剥がして貼り替え、何代にもわたって使い回される。製造に関わる職人なら、喉から手が出るほど欲しがる代物だ。

 それを、ここで差し出してくれるというのか。


「ご協力……、いただけるんですか?」とナタン。

「もちろんや」

「実はな」ガルムが、どこか照れくさそうに続ける。「この馬車にも貼っとる」

「……なんと」

 子爵が思わず声を漏らし、素直に頬を緩めた。

「しかしな……」

 ベルンが顎に手を当て、少し唸った。

「その刻印符、丈夫な紙やないと意味あらへんのや」

「繊維の間を魔力が通らんと、ルーンが息せえへん」

「羊皮紙や鹿皮紙やと魔力が表面に溜まって、流れが歪むんですわ」

「今、工房にある紙の在庫も、もう心許ないし……」

「あらゆる各地の紙をいろいろ試した結果、ヤシマ国の和紙が理想やねんけど」


「……ヤシマの和紙ですか?」


 それまで黙っていたジュールが、ふっと視線を上げた。

「手配できます」

「ほ、ほんまでっか?」

「ええ。それほど時間もかからず、質のいいものをご用意できると思います」

 ドワーフ兄弟が顔を見合わせて笑う。

「それは助かりますわ」


 なるほど。と、俺は内心で頷いた。

 藤一郎デュラン副官繋がり……か。


 短い言葉が、噛み合うように行き交い、濃い専門的なやり取りが続く。

 子爵は腕を組み、やがて口を開いた。

「城壁上部に、固定式の連射式を設置できれば、防衛線は大きく変わるな」

「父上」アルチュールが頷く。「検討する価値は、十分あります」

 話は自然と前向きに進み、気づけば菓子が減り、茶が何度も注ぎ足されていた。


 ひととおり意見が出揃い、ナタンは静かにノートに目を落とした。

 そこには、今しがたドワーフ兄弟から出た指摘が、几帳面な文字と式で書き足されている。


「では、学院にこれを一度持ち帰ります。私たちの専門家に見せ、実際に形に落とし込みます。安全係数も、想定より一段階上で」

 淡々とした口調だったが、ノートを閉じるナタンの指先には、確かな手応えがあるように見えた。

「実に実り多き時間だった」穏やかでよく通るリシャールの声が場を満たす。「立場も専門も違う者が、同じ目的に向かって知恵を出し合えた」

「とても、いい会議でしたね」

 ナタンのその一言で、場は自然に締まった。


 ドワーフ兄弟は満足そうにノートを覗き込み、何度か頷いたあと帰り支度を始める。

 互いに礼を交わし、子爵も交えてまた近々連絡を取り合うことを約束して、二人は満足そうな顔で馬車を降りていく。


「ほな、また続きは改めて」

「楽しみにしてますわ」

 そう言って手を振り、背中を見せた二人の足取りは軽かった。


 その夜、シルエット家でささやかな晩餐が設けられた。


 有難いね。本当に、なんて良い父ちゃんと母ちゃんだ。

 恋人の実家に迎え入れられる――という状況に気恥ずかしさはあったが、それ以上に、自然に席を用意され当たり前のように受け入れられたことが、ただ、嬉しかった。


 昨夜の庭での賑やかさとは打って変わって、温かな灯りの下、静かに料理と酒を囲む席。

 言葉少なでも、皆の表情は穏やかで良い仕事を終えたあとの満足が滲んでいた。


 そして翌朝。

 荷をまとめた俺たちは、多くの人に見送られながら、学院へ戻ることになった。


 ――の、だが。


 馬車に乗り込み、出発の準備が整った、そのとき。


「……なあ」

 ルクレールが、低く唸った。

「なんで、居る……?」


 馬車の奥、座席の陰。

 そこに、当然のような顔で彩尾鳥ダンサーが堂々と座っていた。


「おい、降りろ」

 即座に手を伸ばしたルクレールの指に、鋭い嘴が飛ぶ。

「痛っ、痛っ、痛いっ、こらっ……!」


 容赦がない。それどころか、ノクターンの騎士を相手に小さな体で間合いを制し、嘴と翼だけで完全に押している。


「待て、落ち着け」アルチュールが前に出る。「俺のことは覚えているだろう?」

 以前からの顔見知りだ。

 だが、ダンサーは羽を逆立て、一歩も退かない。


「敵認定されているな……」

 リシャールが静かに言う。

 ナタンに向けられる視線も完全に戦闘態勢だった。


「……面倒だな」ルクレールが額を押さえて言った。「ジュール。彩尾鳥に化けて説得しろ」

「無茶言わないでください。正気ですか? 俺、彩尾鳥語、話せませんよ?」

 即答。


お越し下さりありがとうございます!

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾. (♥ ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

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