最終話・第四節:死してなお歩む者
「——迷う必要はないわ」
エリシアは静かに微笑んだ。
まるで、俺の決断を待っていたかのように。
俺は彼女を失いたくない。
だが、それは俺のエゴにすぎない。
エリシアが望むのは、俺と共に生きることではなく——俺の力となること。
ならば、俺がすべきことは一つ。
彼女の願いを、叶えること。
(俺は"最強の死者"だ。だからエリシアの願いを——)
俺は漆黒の大剣"夜喰らい"を突き出した。
刃が彼女の胸を貫く。
エリシアの体が、小さく震えた。
「っ……」
苦痛に顔を歪めながらも、彼女は確かに微笑んでいた。
「……これで……」
エリシアの胸には俺の大剣が深々と突き刺さっている。
その白いドレスが鮮血に染まり、彼女の体が震える。それでも、彼女の瞳には恐れの色はなかった。
漆黒の刃を突き立てたまま、俺はもう片方の手でエリシアを抱きしめる。
「……私、は……」
エリシアの言葉が途切れる。
彼女の手が、力なく落ちた。
そして——
エリシアは、俺の腕の中で崩れ落ちた。
俺はただ、彼女を強く抱きしめることしかできなかった。
俺の中の”何か”が軋むように叫ぶ。
こんな力は、欲しくなかった。
好き好んで、手に入れたわけじゃない。
だが——もしこの力がなければ、俺はエリシアに出会うこともなかった。
その事実に、思い至った瞬間——
俺の中で、何かが弾けた。
黒い刃が脈動する。
俺の体が、闇そのものへと溶けるように変化していく。
だが、それは単なる“異形化”ではなかった。
全身に黒い紋様が浮かび上がる。
体の奥底から、果てしない力が湧き上がる。
俺は——
完全体へと至った。
「……ああ」
声が漏れた。
これは”歓喜”だ。
圧倒的な力。世界を支配するほどの絶対的な力。
俺の”進化”は、ついに完成したのだ。
「……はは」
口元が、勝手に歪んだ。
「ははははははははは!!」
俺は、嗤った。
——これが、“完全体”の力。
今なら、どんな敵も蹂躙できる。
どんな世界も、“俺のもの”にできる。
目を開く。
視界が、明瞭になりすぎるほど明瞭になった。
この世界の理が、全て掌握できるほどに。
天井が崩れ、巨大な瓦礫が俺を飲み込もうとする。
だが——
それらは、俺に触れることなく、完全に消滅した。
世界そのものが、俺の存在を脅かすことを許さないかのように。
俺は静かに立ち上がる。
エリシアの亡骸を抱いたまま——帰還する。




