最終話・第二節:あなたの力になりたい
光の剣が、俺に向けられていた。
エリシアは微笑んでいる。
それが、あまりにも自然な表情だったからこそ、俺の胸に広がる感情は言い表せないほど重かった。
「……本気で言っているのか」
「ええ、本気よ」
何の迷いもない声だった。
「お前が……お前がここまで一緒に戦ってきた意味は何だったんだ!? 生き延びるためじゃなかったのか……?」
「違うわ」
即答だった。
「私の目的は、あなたのそばにいること」
「……!」
「あなたは“死してなお歩む者”」
エリシアは静かに言う。
「だけど私は生きている。歳も取るし、いつか死ぬわ」
天井が崩れ、光の粉塵が舞う。
白く輝く彼女の翼が、それを受けて、幻想的に揺らめいた。
「それなら……私は人間として生きるより、死んであなたの力になって、最期まであなたのそばにいたい」
その言葉は、俺の中に沈殿する何かを、強く揺さぶった。
——彼女は、最初から覚悟していたのか。
俺と共に歩む道の果てに、これが待っていることを。
「……だから」
エリシアは、光の剣を胸の前に掲げる。
その刃は、白銀の煌めきを帯び、すべてを浄化するような神聖な力を宿していた。
「この剣で——“私を殺して”」
その瞬間——
俺の中の闇が、咆哮した。
否定しようとする意識を押し流し、血の底から湧き上がるような欲求が俺を蝕む。
——この力を喰らえば、お前は完全体となる。
——世界の理すら覆す存在となれる。
——そうすれば、全てを手にできる。
「……チッ」
額に手を当てる。
理性が、揺らぐ。
エリシアを殺したくないという思いと、彼女の力を欲する本能がせめぎ合う。
「……お前が本当にそれでいいと……本気で思っているのか?」
「ええ」
彼女は迷いなく頷く。
「嘘だ」
俺は吐き捨てるように言った。
「お前は、ずっと俺と戦ってきた。俺の力を見て、それでも寄り添おうとしてくれた。なのに……なんで、こんな結論に至る?」
「簡単なことよ」
エリシアが、俺に向かって一歩踏み込む。
その瞬間、俺の全身を貫くような鋭い光の衝撃が奔った。
反射的に"夜喰らい"を振るい、迎撃する。
光と闇がぶつかり合い、激しい衝撃波が巻き起こった。
「あなたは死者。私は生者……」
「だから何だ……!」
「あなたのそばにいるために、"死んで"あなたの力になる」
「ふざけるな!!!」
俺は歯を食いしばり、胸の内側を焼き尽くすような感情を振り払う。
だが、それを待たずして——
エリシアが動いた。
「……覚悟を決めて」
光の剣が閃く。
俺は即座に“夜喰らい”を振るい、その一撃を受け止めた。
衝撃が走る。
光と闇の力がぶつかり合い、空間が悲鳴を上げる。
「……ならば、俺も本気で応えよう」
俺は、最後の迷いを捨てる。
エリシアがここで命を捨てることを選んだのなら、俺がすべきことは一つ——
彼女を全力で迎え撃つことだ。
剣を交えるたび、ダンジョンの崩壊が加速する。
天井が崩れ、巨大な瓦礫が落ちる。
地面が砕け、光と闇の奔流が荒れ狂う。




